日本在住のフランス人、ブノアさんが、独特の視点で日本を捉えたビデオレポートです。
今回は人形の村として有名な名頃(なごろ)–徳島県三好市東祖谷菅生(ひがしいやすげおい)をレポートします。

ビデオレポート

この名頃には強い関心を持っていたため、以前にも訪れようと試みたことがあった。しかしあまりの雪に、わたしの車では目的地手前15㎞でその先をあきらめることとなった。大きな心残しを抱えたまま数カ月を過ごし、次の冬がやってくる前にわたしは再びその場所を目指した。

この静寂に包まれながらもユニークな場所は、命を吹き込まれた人形たちによって、日本の田舎のより活気に満ちた時代を彷彿とさせる。彼らとわたしだけの世界はあまりに静かで透きとおり、感動と少しの恐怖心。神経が研ぎ澄まされていった。(デブニ・ブノア)』

人形の村 “かかしの里” 名頃 Nagoro Doll Village

徳島県西部、四国山地第二の高峰剣山(1955m)に源を発し、深く険しい谷を刻みながら西流する祖谷川上流一帯はかつては外部との交流も隔絶した秘境で、戦いに敗れた人々が隠れ住んだ地と伝えられています。名頃は流域でも最奥に位置し標高は800mほど、ここも地方の例にもれず過疎化に歯止めがかからず2017年末時点で住民はわずか30人弱、しかしそんな衰退した山村に息を吹き込み世界に知られるまでにしたのが手づくりの人形です。

ここは誰もが異口同音に「住人より人形のほうが多い」という村。村に入るとそこかしこに村人と見まがうばかりに人形がいて、かつての活気に満ちた山里の日常を再現しています。日当たりのよい縁側では幼児をあやす人形、停留所ではバスを待ちながら談笑する老人たち、それに畑仕事や工事に勤しむ人形たち、廃校になった小学校体育館では阿波踊りの練習をするグループなど。人形は等身大で、木材を芯に新聞紙や古座布団を重ね合わせて胴体とし、古着や靴を履かせています。特に表情の描き方が大事で、これによりユーモラスで親しみやすいばかりでなく、ときにはリアルすぎてギョッとさせられるような仕上がりになるといいます。

当初は鳥獣害から畑を守るかかしとしてつくられましたが、今では老若男女さまざまな姿ですっかり地域の主役になり村起こしの重責を担っています。

この人形は過疎化を憂えた住人の故郷再生への思いから生まれました。取材をしたデブニ・ブノアさんは、この光景について「人形たちと私だけの世界はあまりにも静かで透きとおり、感動と少しの恐怖心、神経が研ぎ澄まされていった」と残しています。

たしかに人形たちはこの山あいの小村を和ませてはいますが、一方で各地で直面している人口減少による地域の衰退という現実をつきつけ、消滅に向かう虚しさを物語っているようでもあります。(藤沼祐司)