厳しい風土を生きるみちのくの人々のささやかな祈りの対象として、江戸時代から民家やお堂に祀られてきた仏像や神像。仏師ではなく大工や木地師らの手によるこうした民間仏の特徴は、素朴でユニークな造形と表情です。
本展は、東京ステーションギャラリーにおいて初めて仏像・神像を紹介する展覧会です。青森・岩手・秋田の北東北のくらしのなかで、人々の悩みや祈りに耳をかたむけてきた個性派ぞろいの木像約130点で日本の信仰のかたちについて考えます。

■民間仏とは
幕府や諸藩によって、寺院が「本山」とそれに属する「末寺」に整理された近世以降、日本各地の寺院本堂の形状や荘厳(仏壇の装飾など)は宗派ごとに均一化され、同時に大阪・京都・江戸・鎌倉などの高い技術をもつ工房で制作された端正な仏像・神像が祀られるようになりました。いっぽう、地方の小さな村々では十王堂(地蔵堂、閻魔堂)や観音堂など集会所を兼ねた場所が人々の拠り所でした。
こうした場所や民家の神棚に祀られた十王、地蔵、観音、大黒天・恵比須などの木像は、仏師ではなく地元の大工や木地師らが彫ったもので、これを「民間仏」といいます。粗末な素材を使って簡略に表現された民間仏は、日常のささやかな祈りの対象として大切にされてきました。

■六観音立像:江戸時代 宝積寺/岩手県葛巻町。
良質なカツラの木に彫られたあっさり顔と、それとは対照的に手の込んだ衣のヒダ。何らかの追善供養のために造像されたとも考えられるこの六観音(左から聖観音、千手観音、馬頭観音、十一面観音、准胝観音、如意輪観音)は、祈りの静けさと装飾性を帯びた造形が秀逸です。
<展覧会概要>
・展覧会名=みちのく いとしい仏たち
・会場=東京ステーションギャラリー
・交通=JR東京駅 丸の内北口 改札前
・住所=〒100-0005 千代田区丸の内1-9-1
・電話=03-3212-2485
ウェブサイト= https://www.ejrcf.or.jp/gallery/
・会期=2023年12月2日(土) |2024年2月12日(月・祝)
・休館日=月曜日﹇1月8日、2月5日、2月12日は開館12月29日(金1月1日(月)、1月9日(火
・開館時間= 10時|18時﹇金曜日10時|20時﹈ ※入館は閉館30分前まで
・入館料=一般1400(1200)円、高校・大学生1200(1000)円、中学生以下無料
( )内は前売料金11月1日|12月1日オンラインチケット販売
障がい者手帳等持参の方は100円引き(介添者1名は無料)
チケット販売=【前売券・当日券】
オンラインチケット www.e-tix.jp/ejrcf_gallery/
当日券 当館1階入口
■山神像:江戸時代 兄川山神社/岩手県八幡平市
林業に携わる人々に今もあつく信仰されている山神様。大きな顔にちょこんとした目鼻、狭い肩幅とみごとな三頭身、そして控えめすぎる合掌ポーズは、本展のメインビジュアルにふさわしい風格です。丸い頭部と四角い弁当箱のような上半身の組み合わせがたまりません。
■十王像:江戸時代 黒石寺/岩手県奥州市
■鬼形像: 江戸時代 正福寺/岩手県葛巻町。
地獄で亡者の罪を責め苛む鬼(獄卒)が、左手に女性を引きずり、得意満面でポーズを決めています。なぜか頬かむりをして、それでも隠しきれない大きな耳、胸・ヘソ・すねの毛まで表されていて滑稽です。罪深い行為への戒めの意味をもついっぽうで、地獄にまつわるお像がこうして楽しい姿で表されているのは、つらい今世を笑い飛ばしたいという願いが込められているからかもしれません。
■童子跪坐像:右衛門四良作 江戸時代( 世紀後半)。法蓮寺/青森県十和田市18
丸みを帯びた像の底が前後に揺れる仕掛けになっていて、地獄で鬼や十王にごめんなさいを繰り返す童子、あるいは賽の河原で石を積む童子のイメージが重なります。十和田には、大工・右衛門四良の手による武骨でやさしい像が多く残されています。