多くの人が日常で使っている焼き物。その種類や技法が分かると、手にした器を選んだり使ったりするのが、もっと楽しくなります。
ここでは基本的な焼き物のことを紹介します。
基本1. 陶器と磁器の違い
現代で作られている焼き物は、大きく分けると陶器と磁器の2種類。素朴で土の温もりを感じる陶器と、白く滑らかな肌が魅力の磁器。この違いは、原料や焼成温度によって生まれています。
■陶器
土物とも呼ばれる、茶色い素地に釉薬を掛けて焼成する焼き物。萩焼、美濃焼、唐津焼、益子焼など全国各地で作られています。
■磁器
白い素地に藍色の染付や、赤、緑、黄などの絵の具を使った赤絵が特徴。佐賀県の有田焼や石川県の九谷焼などが有名です。
■陶器と磁器の違い
基本2. 焼き物ができるまで
土や石から、暮らしに欠かせない道具や人を惹きつける美術品に生まれ変わって私たちの目の前に現れる焼き物。完成までには驚くほどの手間が掛かっています。ここでは、基本的な作り方の工程を見てみましょう。
1.土を作る
陶器は陶土という粘土、磁器は磁石(じせき)という石などが原料になります。いずれも砕いてふるいにかけ、不純物を取り除いた後水で練り、扱いやすくなるように寝かせ、さらに空気を抜く土練りを行います。
2.成形する
できた土をろくろや手びねり、型などで器の形にします。形が決まったら乾燥させ、高台(こうだい)を削り出したり、模様を彫ったりしてベースとなる形を完成させます。
3.素焼きする
乾燥・成形が終わったら、素焼き窯で焼成。8 0 0~ 9 0 0 ℃の高温で8 ~ 9 時間ほどかかります。焼き上がったら窯が冷めるのを待ってから窯出しします。
4.下絵を描く
素焼きした器の素地に絵を描くことを「下絵」といい、磁器の染付や陶器の鉄絵が代表的です。絵が乾いたら透明釉を掛けて乾かします。
5.本焼きする
陶器は約1,100~1,200℃、磁器は1,300~1,400℃で本焼を行います。高温で40~48時間焼き続けることで釉薬が溶け、表面をガラス質の膜で覆います。
6.上絵・仕上げ
下絵や釉薬で見せるタイプのものは5の本焼で完成ですが、さらに上絵を付ける場合は、冷めた焼き物の上からもう一度絵を描いて温度の低い赤絵窯で焼き、仕上げます。
基本3. 代表的な仕上げの種類
表面にどんな仕上げをするかで焼き物の表情は大きく変わります。土の色や質感で荒々しい生命力を表したり、絵付けで可憐な表情を出したり。昔から受け継がれてきた伝統的な仕上げの方法を見てみましょう。
■焼締(やきしめ)
鉄分が多い土が採れる産地では、土の中の鉄分が溶け出し、目が細かく焼き締まるため、釉薬を掛けずに仕上げる技術が発達しました。素朴で力強い肌が特徴的で、常滑焼や信楽焼、備前焼などに多く見られます。
■自然釉(しぜんゆう)
無釉で焼いたものに、窯の中で薪の灰や樹脂が付着し、天然の釉薬になったものをいいます。窯の中の温度や置かれた場所によってまったく異なる模様や色が出るため、炎が作った偶然の景色が楽しめます。
■施釉(せゆう)
素焼きした焼き物の表面をガラス質の膜で覆う方法。水を吸わないようにして実用性を高める他、装飾のために用いられることも多い。絵の上から施す透明釉を始め、コバルト釉や鉄釉、灰釉などさまざまな色があります。
■下絵・染付(したえ・そめつけ)
素焼きした素地の上に描かれた絵や文様で、透明釉を掛けて本焼すると鮮やかに発色します。本焼の高い温度でも退色しない絵の具は限られるため、呉須(ごす)を使った青い染付や、鉄を含んだ絵の具による鉄絵が代表的です。
■上絵・赤絵(うわえ・あかえ)
釉薬を掛けて焼き上げた焼き物の上に、さらに絵を付けることをいいます。上絵、赤絵、色絵などと呼ばれますが、全て同じ意味。上絵を付けてから焼く窯は本焼よりも温度が低いため、鮮やかな色のものが多く見られます。
■染錦(そめにしき)
下絵と上絵、両方を施したもの。呉須の青、上絵の赤や金、緑などが華やかに器を彩ります。絵付けの手間はもちろん、焼成も3 回することになり、完成までに長い時間がかかりますが、その美しさはまさに錦のごとくです。
基本4.器の表情を決める釉薬と表現
釉薬や絵付けにも表現技法がいろいろ。伝統的なものはもちろん、現代でも新しい表現が次々と生まれています。自分の好みが分かれば、お店や窯元での会話もいっそう楽しくなります。
■白磁(はくじ)
磁器の白い肌を生かし、透明釉だけで仕上げたもの。絵や色を使わない分、形に創意工夫を凝らしたものが多い。
■青磁(せいじ)
釉薬と素地に含まれる酸化第二鉄が還元炎焼成によって酸化第一鉄に変化し、透明感のある青色、青緑色に発色したもの。
■天目(てんもく)
元は「天目茶碗」から来ているが、天目茶碗に黒が多かったため、色の名前になった。酸化鉄による光沢のある黒が特徴。
■辰砂(しんしゃ)
透明釉に銅を混ぜて赤色に発色させたもの。釉薬が掛かる厚みの違いによって、青色が生じるのも魅力の一つ。
■金彩(きんさい)
金色の絵の具を使った上絵。さりげない装飾でも金が入ると華やかでモダンな雰囲気に。銀を使ったものは銀彩
■鎬(しのぎ)
刀の鎬のような鋭い稜線をヘラなどで表面を削って浮かび上がらせたもの。立体的な表情が生まれる。
■いっちん
釉薬や化粧土をスポイトや絞り袋のようなものに入れ、盛り上がった線や滴のような模様を描いたもの。
■掛け分け(かけわけ)
2 種類の釉薬を掛け、色の違いや混ざり合った部分の変化を楽しむもの。釉薬の種類や掛け方で多彩な表情が生まれる。
■志野(しの)
百草土の素地に、白い長石釉を掛けて焼いた文様のない無地の志野を指す。気泡の入った、淡雪のような白色が特徴
*「志埜茶盌」鈴木藏 愛知県陶磁美術館所蔵(作者寄贈)
【これだけは知っておきたい焼き物用語集]
■参考文献
『やきものを楽しむ旅』(世界文化社)、『日本のやきもの窯別ガイド有田・伊万里』(淡交社)、『目の眼 やきもの王国、日本』(目の眼)
■写真協力
写真キャプション
(B)李荘窯業所
https://www.arita.jp/shop/post_46.html
(C)伝統的工芸品産業振興協会
https://kyokai.kougeihin.jp
(D)まるぶん
https://www.marubun-arita.co.jp