江戸の美意識とデザイン <br />
小粋を伝える江戸小玩具
江戸の美意識とデザイン <br />
小粋を伝える江戸小玩具

伝統の手わざは、その時代の感覚を吹き込み人々の心を動かす魅力的な製品を数多く生み出してきました。 ここでは、江戸の美意識とデザインについて、多摩美術大学造形表現学部デザイン学科教授・学科長、武正秀治先生にお聞きました

江戸の美意識「 粋 」と「 小 粋 」

最近はあまり使いませんが、小粋という言葉があります。江戸の美意識である「粋」のあたまに 「小さい」という文字が付いた 合成語です。「粋」は、江戸深 川の花街から生まれた美意識で すが、ひろく一般に共有された 美的価値です。

さて、ここで注目していただきたいのは、本来「小さい」、「ちょっと」、という意味の「小」が付くことで、「粋」という意味が強調されている点です。不思議な感覚ですが、「粋」よりも「小粋」、「さっ ぱり」より「小ざっぱり」、「きれい」よりも「小ぎれい」といった具合に、本来の言葉よ り「小さい」「ちょっと」とい う微細なイメージを付加すると意味が強調される印象があります。

この感覚は、言葉だけではありません。たとえば同じ性能であれば、サイズの小さい方が優 れていると感じる傾向と同じで す。内容が薄っぺらで中身がな い、と思われがちな「軽薄短小=軽い・薄い・短い・小さい」 に、洗練を見い出す日本人の美意識に大いに通じるものがあります。

小粋を伝える江戸小玩具

江戸の「小粋」を現代に伝える手わざがあります。江戸小玩具とよば れる文字どおり小さな 手づくりおもちゃです。その起源は、八代将軍吉宗の享保の改革 (1718年ごろ)にまでさかのぼります。 財政難だった幕府は、 隆盛する町人層の経済力を抑えるために、華美贅沢を禁止する「奢侈禁止令」をたびたび出していました。雛人形や武者人形など玩具の多くが、豪華さを競うかのように大型化されたため、その小型化が求められたのです。 これがキッカケとなり、本物と同じ素材によって精巧に再現された豆おもちゃ=江戸小玩具が 生まれました。

「軽薄短小」好きの日本人の美意識をくすぐる商家や屋台、農家の庭先のミニチュアなど洗練された逸品はたちまち人気を集めました。このほか、「ざるかぶり犬」という「犬」の頭に「竹」のざるを載せると「笑」 という文字になることをシャレた縁起モノの玩具など、楽しいものが数多く今に伝えられています。これらは浅草仲見世の江戸小玩具専門店「助六」(創業 1866年)で入手することが できます。

⬇️ 江戸小玩具専門店「助六」

https://www.asakusa-nakamise.jp/shop-7/sukeroku