日本沿岸には黒潮と親潮が流れています。そのお陰で海の中は変化に富み、魚類や生物が豊かなのです。冬季には北海道に流氷が漂着するので「流氷ダイビング」が可能ですし、沖縄では「サンゴ礁ダイビング」ができます。こんなことができる国は日本だけです。ここでは、個性豊かな日本の海に生息する魚を紹介していきます。
大方洋二(水中写真家)

派手な模様の代表格

サンゴ礁の海には、派手な模様をした魚がたくさんいます。中でもモンガラカワハギ科のモンガラカワハギはその代表といえ、どこにいてもよく目立ちます。

大きさは約25センチで、相模湾以南の西部太平洋、インド洋に分布していますが、成魚が見られるのは奄美大島以南になります。一般的に派手な模様の魚は縄張り意識が強く、特に同種に対しての自己主張と考えられています。

目立つ模様のモンガラカワハギ。第1背ビレはまさにトリガー(沖縄)

背ビレは二つに分かれていて、前にある第1背ビレは後ろに倒すことができ、溝に収まる仕組みになっています。ふだんは倒していることが多いです。第1背ビレの形が銃の引き金(トリガー)に似ていることから、モンガラカワハギ科魚類の英名はトリガーフィッシュで、モンガラカワハギはクラウン(道化師)トリガーフィッシュと呼ばれています。

約5センチの幼魚(八丈島)

南の島から幼魚が

沖縄の離島によく通っていた80年代、モンガラカワハギの成魚には出会えるものの、幼魚は見られませんでした。図鑑で見た幼魚はとても可愛いので、ぜひ撮りたいと探したのですが、見つかりません。そんな折、たまたま伊豆諸島の八丈島へ行ったとき幼魚に出会い、ようやく撮ることができました。南の海から稚魚が流れ着いたのでしょう。

巻貝を見つけてくわえたところ(沖縄)

ウニもそのまま口に

エサは甲殻類、ウニ類、貝類などで、それらが多いガレ場や転石帯などを行動しています。噛む力は相当強く、小さな巻貝などは簡単に噛み砕いてしまいます。

ウニは小さければそのまま口に入れますが、大きいとトゲが邪魔になります。トゲを咥えてひっくり返し、トゲのない底の部分から食べることもあるらしいのですが、まだ見たことはありません。

下のほうのクリーム色のものが卵塊(沖縄)

親が卵を守っている姿に出会うのはラッキー

繁殖期は初夏から晩夏で、研究者によると産卵は日の出ごろとか。どうりで見られないはずです。でも親が卵を守っているところは観察したことがあります。ガレキの海底に産んだスポンジ状の卵塊を守っていたのです。

通常卵を守るのはオスなのですが、モンガラカワハギ類はメスだそうです。その訳は、ふ化がその日の夜なので負担が少ないからのようです。

繁殖期に産卵・ふ化を何度か繰り返すようですが、親が卵を守っている姿に出会うのは、かなりラッキーなことなのです。

写真・文: 大方洋二 Yoji Okata

水中写真家。魚類の暮らしぶりを撮影するため、南西諸島や世界の海を巡っている。主な著書に「Marine Blue」(山海堂)、「クマノミとサンゴの海の魚たち」(岩崎書店)、「奄美 生命の鼓動」(講談社)、「アマミホシゾラフグ~海のミステリーサークルのなぞ~」(ほるぷ出版)など多数。東京在住。