作り手と客の架け橋になり、伝統の技を現在に生かす。職人街に生きる問屋魂に触れる『刷毛とブラシ専門店』。
文 : 水口まり Mari Minakuchi / 写真 : 菅原孝司 Koji Sugawara
日本橋は、江戸時代から幕府の御用職人の町として栄えてきた地です。そんな歴史を持つ場所に「職人のための道具屋」として、創業から300年近く地域に愛されてきた刷毛(はけ)とブラシの専門問屋があります。
あらゆる形や大きさの刷毛とブラシがところ狭しと並んだ店内は、まるで小さな博物館のようです。職人たちの匠の技を支える仕事道具から、人々の生活を便利にする日用使いの便利グッズまで、刷毛、ブラシと名のつくものはなんでも揃います。
客の要望に答えて、職人と製品を開発することもあります。中には、ストローの掃除用に細長く仕上げたブラシや、背中を掻くための孫の手ブラシなど、ニッチで一見では使い道のわからないものもあります。リクエストを取り入れるうちに取り扱う商品がどんどん増えて行き、今では3000種類にも上るそうです。 オーソドックスな商品のほうも、素材や製法は多種多様です。たとえば靴ブラシ。一括りに靴ブラシといっても、デリケートな素材の靴には山羊毛、ほこり払い用には馬毛、汚れがこびりついたスウェード靴には銅線、というように目的によって素材が使い分けられていて、手に取ると手触りの違いがよくわかります。
また、最近の看板商品の一つであるヘアーブラシは、職人がハンドメイドで毛を植える昔ながらの製法で作られた手植えの商品と、機械を使って植えたリーズナブルなものが並べて売られています。老舗としては昔ながらの製法で作られた手作りの方に愛着があるのでは、と思いきや、営業部長の戸田寛さんからは意外な答えが返ってきました。
「手作りがもてはやされる風潮がありますが、機械製品と比べてどちらがよいと言う風には思っていません。最終的に店に並ぶ製品の出来が全てですから」
顧客の手に届く商品のクオリティーが良ければ、工程やうんちくには固執しない。その姿勢こそ、使い手に愛される所以なのかもしれません。