福井県沖の日本海では、毎年秋から春にかけて10種類以上のカレイが獲れる。なかでも漁獲量が最も多いのはアカガレイで、その約7割が越前町の漁港で水揚げされることから、福井県産のアカガレイは「越前がれい」の名で呼ばれている。煮付けでも、唐揚げでも、焼きでも楽しめる越前がれいだが、地元漁師たちが最も美味しいとする食べ方は、カレイでは珍しい刺身なのだという。

越前がれいのほか、名物・越前がにの水揚げでもよく知られる越前漁港。

福井では昔から親しまれてきた美味しい白身魚。

アカガレイは日本海の水深150mから500mほどの海底に生息する魚で、底引き網漁が解禁される9月から漁が始まる。福井県の漁獲量は、日本海に面する府県の中では、鳥取県に次ぐ第2位で、地元の人たちは古くからこの白身魚に親しんできた。『天神講の焼ガレイ』もそのひとつで、毎年1月25日、福井県では嶺北地方を中心に、子どもの健やかな成長や学問成就を願って床の間に天神様(菅原道真公)の掛け軸を飾り、その前に焼ガレイを供える風習がある。

冬に獲れるアカガレイは肉厚で身が引き締まり、そこにカレイならではの旨味がしっかりと凝縮されている。そのため、煮付けや唐揚げ、焼き魚や干し物など、どんな食べ方でも美味しくいただけるのだ。ただし、刺身だけは話が別である。姿のよく似たヒラメなどと違い、足が早い(鮮度が長持ちしない)カレイは生臭くなりやすいため、生のまま食べることはほとんどなかったのだ。

透き通るような越前がれいの白身は、コリコリの食感と濃厚な甘味が特長。(写真提供:越前町観光連盟)

漁師の家族だけが食べてきた幻の味。

「越前がれいというと一般の人はまず煮付けや唐揚げを思い浮かべるようですね。でも、地元の漁師たちがいちばん好きなのは、実は刺身なんですよ」

この話を聞かせてくれたのは、福井県漁業協同組合連合会(JF福井漁連)越前支所長の井村和人さんである。井村さんによると、昔から底引き網漁船に乗る漁師たちは、最後の網で揚げたアカガレイを家に持ち帰り、刺身にして家族で楽しんできたという。

新鮮な越前がれいの刺身は濃厚な甘味と旨味があり、コリコリとした食感はヒラメ以上と絶賛する人も多い。ただし、誰もが口にできるわけではない。越前町の漁師の家庭や一部の民宿だけでしか味わえない、いわば幻の味だったのだ。それを全国の人に届けるために開発したのが「活〆・神経抜き」という方法なのだった。

「活〆・神経抜き越前がれい」の刺身は、高級魚ヒラメ以上の美味だと評判。(写真提供:越前町観光連盟)
水温の低い漁協の水槽で休ませた越前がれいは、赤みの強い色合いをしている。

一尾ごと丁寧に活〆と神経抜きを行って出荷。

漁船の生け簀などで生きたまま港に運ばれてきた越前がれいは、手早く漁協の水槽に移される。井村さんによると、このとき重要なのは水温で、深い海底と同じ3℃前後の海水温でひと晩以上休ませてやることにより、越前がれいはストレスから回復するのだという。そして、出荷直前に目の後ろ側と尾部に切れ目を入れて冷水でしっかりと血を抜き、さらに脊椎に専用のワイヤーを差し込んで神経を破壊する。こうして活〆と神経抜きを済ませた越前がれいは鮮度と美味しさを保ったまま出荷されていく。

「たいていの人は、刺身は新鮮なほど美味しいと思っているかもしれません。ところが活〆・神経抜きをした越前がれいは鮮度が落ちないので、旨味の増した2~3日目がいちばん美味しくなるんですよ」と井村さんは教えてくれた。

また、2020年には越前がれいの最上級ブランド『越前がれい 極』も新たに誕生した。通常、活〆・神経抜きにする越前がれいは500グラム以上のものだが、産卵のため脂のたっぷりのった、9月から翌1月に漁獲された重さ800グラム以上のメスには、特別に金文字の『極』のタグが付けられる。この『越前がれい 極』は水揚げ全体のわずか2%しかなく、市場にはなかなか出回らない。その絶品の味は、ぜひ冬の越前町を訪ねて楽しんで頂きたい。

こちらは普通に水揚げされた越前がれい。冬の福井を代表する味覚のひとつ。
カリッと揚げた越前がれいの唐揚げは骨まで余すことなく食べ尽くせる。(写真提供:越前町観光連盟)
越前がれいの身は肉厚のため、煮付けにすればほくほく感をたっぷり味わえる。(写真提供:越前町観光連盟)

INFORMATION

越前海岸

(えちぜんかいがん)

北の東尋坊から南の敦賀市にかけて、約90㎞にわたりワイルドな奇岩断崖の海岸線が続く。日本海に大きく張り出した越前岬の展望台は夕陽の名所で、周辺では12月から1月にかけては水仙の花が咲き乱れる。海岸線を行く国道305号沿いには、自然のトンネル『呼鳥門(こちょうもん』を始めとする景勝地も多く、格好のドライブコースになっている。

*越前町血ヶ平(越前岬展望台)/℡0778-37-1234(越前町観光連盟)

        

越前の宿 うおたけ

(えちぜんのやどうおたけ)

ズワイガニの仲買人が営む宿で、名物の越前がに(11~3月)ばかりでなく、一年を通じて極上の海の幸を提供してくれる。本館は現在休館中で、別荘のようなプライベート空間を楽しめる別館(1日3組限定)のみで営業。日本海を一望にできる浴室は、越前くりや温泉の源泉を掛け流しにしていて、なめらかな肌触りの湯が身も心も癒やしてくれる。

*1泊2食付き(越前がにプラン)65,000円~/越前町厨17-83/℡0778-37-1099

       

越前陶芸村

(えちぜんとうげいむら)

日本六古窯のひとつ、越前焼の産地に昭和46年(1971年)に地域開発の拠点として作られた施設。越前焼を見たり、作ったりできる福井県陶芸館のほか、越前焼の販売所や食事処、越前古窯博物館や後継者の育成施設などが点在している。

*福井県陶芸館/入館料300円(常設展)/9:00~17:00(入館は16:30まで)/月曜休館/越前町小曽原120-61/℡0778-32-2174

     

2024年春、北陸新幹線が福井・敦賀まで延びる!

2015年3月に金沢まで延伸した北陸新幹線は、現在、金沢~敦賀間で工事が進められている。この新たに建設される約125㎞の区間は2024年春の開業を予定していて、石川県内には小松と加賀温泉の2駅、福井県内には芦原温泉と福井、越前たけふと敦賀の4駅に新幹線が停車するようになる。これまで東京から鉄道で県庁所在地の福井をめざす時には、東海道新幹線(米原経由)でも、北陸新幹線(金沢経由)でも3時間半ほどかかっていた所要時間が、北陸新幹線が延伸すれば乗り換え無しの2時間台になり、観光でもビジネスでも利便性が大きく向上することが期待されている。