鎌倉時代から続き、国の重要無形民俗文化財にも指定されている神事芸能「花祭」。悪霊を払い、五穀豊穣、無病息災を祈って、親から子へ、孫へと大切に伝承されてきました。一昼夜演じ続ける感動の奉納舞に参加してみませんか?

最初に登場する役鬼の山見鬼(やまみおに)。山を割る所作で浄土を開く。花祭にはいくつかの鬼が現れ、それぞれ役割を演じる。

神々を迎え、夜を徹して人が舞い、鬼が舞う

愛知県の北東部で700年以上に渡って継承されている神事芸能が「花祭」です。花祭は、太陽や自然の力が衰弱する冬に精霊の復活を祈願する「霜月神楽(しもつきかぐら)」の一種。毎年11月上旬から翌3月上旬に、東栄町内など11か所の地区で開催されています。

人々は八百万(やおよろず)の神を迎え入れ、一年の無病息災や五穀豊穣を感謝、そして新たな生命力の「生まれ清まり」を祈るのです。神様を迎え、舞でもてなし、再び天にお帰しする。一昼夜を通して行われる40種以上の神事や舞で構成されています。

舞や神事を行なう場所を舞庭(まいど)といい、中央に竃が備わる。竃の上に湯蓋(ゆぶた)や百蓋(びゃっかい)が、四方にざぜちという飾り物が吊るされる。足込の花宿は年に一度花祭のときだけ開放。

訪れたのは、町の北中部にあたる足込の集落。祭りの会場となる花宿(はなやど)は、昔寺子屋として使われていた建物を明治時代に現在の場所へ移築したものでたいへん珍しく、積み重ねられた年月の佇まいが風情を醸しています。

「神事や祭りの流れはどの地区もだいたい同じですが、細かい部分で固有の特徴があります。たとえば、神事の『天(あま)の祭り』を古式どおりに行うのはここ足込だけです。他には、鬼の顔が地区で違ったり、神道か神仏混合かの違いで地区ごとに拍子や舞の所作、飾り物が異なったりしますね」

そう話すのは、祭りを取り仕切る神職、花太夫(はなだゆう)の柴田吉夫さん。4歳で初めて参加して以来、毎年花祭に携わり、19年前に大役の花太夫を任されました。後継が決まったその年、先代の花太夫の急病、そして他界により、いきなり儀式や進行の全てを担うことになったと話します。

花宿の2階で行われる『天の祭り』。古式どおりに75膳のお供え物が並べられ、願主の祈願が行われる。

「代々、神事の細部は師匠から弟子へ口頭で伝えられるもの。しかし、全てを教わる間もなく師匠は逝去。祝詞の一つも唱えたことがなかった私は途方に暮れました。古語で神事が記された難しい小冊子が一冊残っていただけでね。しかし、私がやらなきゃ花祭が廃れると一念発起。そこからは挑戦の連続です。仲間と古語を解読したり、真言を学びに高野山へ赴いたり。先輩方から教わった慣習の記憶を辿りながら、それらを書き留めていきました。口伝でなく記録に残す。それが私の使命じゃないかと痛感したんです」

そう決意し、40ほどある行事の内容を書物にまとめたのが8年前。それまで縁のなかったパソコンを駆使し、柴田さんは後世に残る〝花祭の教本〞を作り上げたのです。

「書物に残すことは本筋じゃないかもしれません。しかし、若者が減り、人口が減っていく現状にあっては、その時代に合った方法で伝承していく必要があると思うんです。先代が残してくれたものをできる限り忠実に後世へ伝えたい。そして、たとえ規模が縮小しても、この土地で守られてきたものを永久に残そうとしてくれる地域と人々であってほしい。これは私の願望、希望ですね」

4、5歳の幼児や小学生が担う『花の舞』。舞庭を埋め尽くした家族や観衆が、子どもらの舞を温かく見守る。

一昼夜を通して、鍛錬された舞が観衆を魅了する

献上舞の最初の『市の舞』が始まる午後6時過ぎ、観客が徐々に増え始めます。観客席は「せいと場」、「テーホヘ、テホヘ」の掛け声で舞を囃す人たちは「せいと衆」と呼ばれ、演者、せいと衆、太鼓・笛・歌ぐらの楽(がく)が一体となり、舞庭はだんだんと熱気を帯びていきます。

『花の舞』や『山見鬼の舞』のころになるとせいと衆の掛け声はさらに大きくなり、観客の体は自然に動きだし、拍子に合わせて踊る姿があちこちで見られます。舞の時間は一折平均40分。長いものでは90分近くも同じ演者が舞い続けます。その間拍子は緩急に富み、跳ねたり中腰のままゆっくり動いたりと、見るからにハードそう。しかし、どの舞もとにかく美しい。華麗でしなやかで力強く、見る者をどんどん引き込んでいきます。演者それぞれが役割を果たし、力の限りに最後まで舞い上げると、盛大な拍手とともに「よう舞った!」との歓声が。演者にも達成感の笑みがこぼれます。

藁で作られた「湯たぶさ」で誰彼、所かまわず豪快に湯がかけられる『湯ばやし』。人も舞庭も水浸しになる

次第通りに行事が進み、青空が広がった翌日の午前11時。花宿の内外は2日間で最も多い観衆で賑わいます。みなの目当ては『湯ばやし』。4人の少年による舞の花形の登場です。60分に及ぶ舞の最後に竃の湯を所かまわず振りかけるのがこの行事の山場。湯を浴びれば無病息災、健康で過ごせるとされ、観衆はわざわざ湯を浴びるために集まるのです。

すべての献上舞が終わり、神を天に帰す神事に入る前に、「来年もこうして花祭を開催できますように」と柴田さんが挨拶。その思いに笑顔で応え、花宿を後にする人々の満ち足りた表情が印象的でした。昨年まで宮人(みようど)として神事に携わっていた足込花祭保存会長の田中耕太郎さんは「花祭は生き甲斐です。孫の世代へ祭りを伝えるのが私らの使命。舞だけでなく神事もきちんと伝えていきたい」と話してくれました。

藁で作られた「湯たぶさ」で誰彼、所かまわず豪快に湯がかけられる『湯ばやし』。人も舞庭も水浸しになる。

<国指定重要無形民俗文化財 「足込花祭」次第>

■神事 一 瀧祭り/二 辻固め祭り/三 高根祭り/四 神入り/五 天の祭り/六 神迎え/七 竃払い/八 湯立/九 楽の舞/十 順の舞

■献上舞 一 市の舞/二 地固めの舞/三 花の舞/四 山見鬼の舞/五 三ツ舞/六 榊鬼の舞/七 岩戸開き/八 四ツ舞/九 翁の舞/十 湯ばやし/十一 茂吉鬼の舞/十二 獅子退治の舞

■神事 一 ひいなおろし/二 しずめ/三 花そだて/四 宮渡り/五 神帰し/六 なりもの/七 大将軍祭/八 下道払

■DATA 開催日:毎年11月~翌3月

開催地:愛知県北設楽郡 東栄町各地域11か所

問い合わせ:愛知県地域振興部地域政策課山村振興室

TEL:052-954-6097 FAX:052-954-6906

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