温泉宿の軒先などでときどき見かける『日本秘湯を守る会』の提灯、これはその宿が社団法人・日本秘湯を守る会の会員であることを示すものです。発足時1975年の会員宿は33軒、現在は全国185軒の宿が収録されています。かつては山登りの末にようやく辿り着けたり、電気がなかったり……という正真正銘の秘湯もありましたが、時代が変わり、快適すぎてビックリ! という宿も多くなっています。極上の濁り湯はゆたかな大地のおもてなし。老若男女が気兼ねなく、おおらかに楽しめる「秘湯」をご紹介します。
文 : 佐々木 節 Takashi Sasaki / 写真 : 平島 格 Kaku Hirashima
乳頭温泉郷 鶴の湯温泉 (秋田県仙北市)
歴史ある御殿湯で山の恵みを味わいつくす
十和田八幡平国立公園の一角、田沢湖高原に点在する乳頭温泉郷には、それぞれ源泉を別とする7軒の温泉宿が点在しています。そのひとつ、鶴の湯温泉は1638年に秋田藩主・佐竹義隆公が湯治に訪れたという記録が残っているほどの、長い歴史を誇る湯治場です。鶴の湯の魅力は何と言っても敷地内に4種類もの湯が湧きだしていることでしょう。白湯、黒湯、中の湯、滝の湯と呼ばれる源泉は、泉質も、効能も、肌触りも異なり、一軒の宿にいながらにして、湯めぐりを楽しむことが可能。露天風呂からは、春の新緑から冬の雪景色まで、季節ごとにすばらしい眺めも楽しむことができます。
宿で夕食に供されるのは、郷土料理〝山の芋の鍋〞のほか、イワナの味噌焼きや山菜など。温泉だけでなく、胃袋でも大地の恵みを堪能することができます。また、宿泊棟のひとつ、本陣は、そのむかし藩主が湯治に訪れた際、警護の者たちが詰めていた建物。大地の恵みに浸りながら、山の恵みを味わいながら、そして、宿の歴史を噛みしめながら、贅沢なひとときをすごせる温泉宿です。
乳頭温泉郷 鶴の湯温泉
秋田県仙北市田沢湖田沢字先達沢国有林50
☎0187・46・2139
アクセス:秋田新幹線・田沢湖駅から路線バス+送迎バスで約1時間
東北自動車道・盛岡ICから約55㎞/2時間