日本列島は南北に長いため、気候区分は亜熱帯から亜寒帯までと幅広い上、海岸線から高山帯までと地形の変化も複雑で、さまざまな環境に適応して暮らしている野鳥の種類も600種前後ととても多くなっています。そんな野鳥たちの暮らしぶりをご紹介します。

スピードと強さの象徴

地球上で最速の鳥は、時速170キロのハリオアマツバメということだが、これは水平に飛翔する場合。ハヤブサは、狩の時には急降下で獲物に襲いかかる、この時の急降下のスピードは、時速300キロとも400キロ近いとも言われている。人間は、ハヤブサのスピードや強さに憧れて、戦闘機や機関車、バイクなどに名前を冠してきた。実際にハヤブサを観察していると、たんにイメージとしてあるのではなく、そのスピード感や勇壮な狩の場面に心奪われることだろう。

ハヤブサは、鉄塔や断崖のてっぺん、ときには空高くに浮かびながら、眼下の獲物に狙いを定める。鳥専門のハンターなので、ハトやヒヨドリ、シギなど中型の鳥たちが主なものだ。ひとたび狙いを定めると、一気に獲物の上空まで飛んでいき、反転して急降下に移り、追いすがって鋭い爪で蹴り落とす。

岩場の見張り場で獲物に狙いを定めて飛び立つ。翼の形状がスピード選手であることを示している。
反転して背面飛行、急降下への一連の流れ、この間、獲物から目ははずさない。
逆落としで逃げ惑うヒヨドリに襲いかかる。
海面すれすれを逃げると、ハヤブサも急降下攻撃では海につっこむ危険があるので、追いすがっての攻撃になる。

ハヤブサは、メジロなどの小さな鳥は、直接掴むこともあるが、丈夫な足と鋭い爪で蹴落として仕留めることのほうが多い。海に蹴落とした獲物を拾い上げるときだけは、それまでのシャープな動きとは違って、もたつき感がある。スピードの特化した体型では、ゆっくり飛ぶことは苦手なおかもしれない。一度に拾えなくて何度かやり直しているうちに、トビに横取りされることもたまに目撃される。

海に蹴落としたハトを拾おうとしているハヤブサ。

ハヤブサは、鳥を食べるので、足や嘴は汚れやすいし、海岸に住むことも多いので潮風にも晒される。真水での水浴は、健康と羽毛の維持には欠かせない。

大きな岩のくぼみに溜まった雨水で水浴するハヤブサのメス。

子育ては断崖絶壁

ハヤブサは、海岸の断崖や巨岩のくぼみなどで子育てする。巣材は使わず、雨のかからない場所に直接卵を産む。近年は、都会の鉄塔やビルなどでも繁殖が確認されている。

人や動物が近づけない絶壁のくぼみで育つヒナ。

東北の内陸部で子育てするハヤブサを観察していたとき、断崖のてっぺんから枯れた根っこを無理やり引っ張り出して、頭上を数回旋回する場面を見たことがある。巣材を使わないハヤブサなのに、どういう行動なのか不思議におもったものだ。うっとうしいカメラマンに落とすつもりだったのか、筋トレなのか、それとも他の理由なのか、いまだに謎は解けないままだ。

けっこう大きな根っこを掴んで、旋回するハヤブサ、どういう意味の行動だろう?

子育て中の狩は、基本的にはオスの役目、メスは巣が見える場所で見張りをしている。捕らえた鳥は、羽毛を抜き取ってからメスに渡す。

ドバトを運んできて、羽をむしるオスと巣立ちしたヒナたち。先にもらったもの優先で、ヒナ同士が争うことはない。
ホトトギスをもらったヒナ。成長すると、丸のままもらい、羽むしりも自分でやるようになる。

巣立ち後、はじめての飛翔は、大空を自在に駆け巡るハヤブサのヒナであっても、危なっかしく、大丈夫なのかとはらはらと見守るのだが、毎日飛ぶ練習を繰り返し、1ヶ月もするともはや親と遜色ないほどになる。上昇気流の湧く時間帯、適度に風でもあれば、一家で空高く舞い上がり、スズメほどにしか見えない高空を、まったく羽ばたくこともなく、滑るように飛翔している。いつまでも見続けていたい景色である。

ハヤブサがハヤブサになるためには、飛ぶ練習も大事なこと。

写真・文: 和田 剛一 Goichi Wada

野鳥写真家。「日本の野鳥の生活感ある写真」を求めて全国を旅している。高知県在住。
主な著書に「WING野鳥生活記」「SING野鳥同棲記」(小学館)、「Sing! Sing! Birds!」(山海堂)、「野鳥撮影のバイブル」(玄光社)などがある。