京都の夏の風物詩を生んだ歴史と、職人の技に触れる『京都丸うちわ』。
写真 : 谷口哲 Akira Taniguchi
夏を象徴する日用品といえばうちわ。 プラスチックの骨組みのものを多く見かけますが、竹と和紙でできた手作りの団扇の繊細な佇まいは美しいものです。仰いだ時にふわりと送られる風は格別で、その仕草を端から見るだけでも涼しい気分にさせられます。
京都の花街(かがい)では、夏の挨拶に芸妓・舞妓さんがお得意先へ京丸うちわと呼ばれる名前入りのうちわを配る風習があります。京都で唯一、その京丸うちわを作っているのが、小丸屋住井です。
京の夏の風物詩を担う同店は、他にも宮廷で使われた「京うちわ」、竹の産地だった京都・伏見深草の竹を使った「深草うちわ」など京都にゆかりのある様々なうちわを扱っています。
住井家の歴史は古く、うちわ作りを始めたのは天正年間(1573〜92 年)のことです。今でこそ庶民的なイメージのあるうちわですが、古くは公家や役人などの権力者が威厳を示すために顔にかざすなどして使う、権威を象徴するアイテムでした。
住井家は時の帝(みかど)により伏見深草の真竹を使ったうちわ作りを命じられます。1本の竹の上部を割いて骨組みを作り、下部を持ち手にする作りの「深草うちわ」の誕生です。柄と扇面が一体担っているため構造的に丈夫で、江戸時代に庶民の間でうちわが一般的になると全国で人気を博しました。
この流れを汲み、明治時代には、京都の「京」と小丸屋の「丸」を取って「京丸うちわ」と名付けられた小丸屋住井の看板商品が生まれます。
うちわ作りが始まるのは、毎年11月頃。納品された竹の骨を検品することから始まり、骨に地紙を貼る「貼り」や、紙を刷毛でなでて糊をなじませる「撫(な)ぜ」、扇面を丸く整える「うちきり」、骨に沿って地紙に筋を入れる「筋入れ」などの工程を経てやっと、一本のうちわが完成します。骨と骨の間隔、左右対称の曲線、糊の濃度など、長年の経験に培われた感覚が頼りの緻密な作業です。
1年間で作られるうちわは約3万本に及びます。この夏も人々に涼を届ける小丸屋住井。10代目女将の住井啓子さんは「うちわの風にはエアコンにはない優しさがあります。今後もご先祖さまに恥じないよう、伝統の技術を守っていきたいです」と語ってくれました。