日本国内はどこへ行っても魅力的な鉄道が走っています。
鉄道旅は、他の交通機関では味わえない、その地域の魅力を感じることができます。
ここでは、日本の鉄道旅の魅力をシリーズでお伝えします。
今回は、130年の歴史を誇る人気の登山鉄道「箱根登山鉄道」です。

箱根登山鉄道

日本を代表する観光地の箱根。日本人はもとより海外から訪れる観光客にも大人気の温泉リゾート地です。観光バスなどで訪れる人も多いのですが、箱根には130年の歴史をもつ「登山鉄道」が走っています。沿線は季節ごとに風景を変え、ゆったりとした旅を楽しむには最高の列車旅になります。

登山鉄道沿線には温泉や美術館が

現在、登山電車の始発駅は箱根湯本。小田原=箱根湯本間も箱根登山鉄道の路線ですが、現在この区間は小田急電鉄の車輛が乗り入れています。箱根湯本駅を出発すると、いきなりの急勾配です。そして二つトンネルを抜けると芦ノ湖を水源とする早川にかかる「出山の鉄橋」(正式には早川橋梁)を渡ります。鉄道遺産として評価されている名所で、国道1号線からも、その雄姿を見ることができます。

早川に架かる「出山の鉄橋」を渡る登山電車

その先にある出山信号所で最初の方向転換、急な勾配を登るため工夫された一つの方式がスイッチバックです。前後が入れ替わるこの仕組みは、この先の大平台駅、上大平台信号所の2か所にもあります。このスイッチバックを始め、トンネル、橋梁、急カーブの連続で、山岳鉄道の建設がいかに困難であったかを実感できます。

箱根には古くから栄えた温泉場があり、湯本から順に、塔の沢、大平台、宮の下、小涌谷、強羅といった名湯が沿線に並びます。こうした駅に順に停車しながら終点の強羅まで約40分、ゆったりとし列車旅を楽しめます。この沿線には「彫刻の森美術館」「箱根美術館」など、人気の美術館もあります。

人気の高い「箱根・彫刻の森美術館」

花などの自然の魅力もいっぱい

箱根登山鉄道の沿線は花の名所としても有名です。とくに6月から7月にかけての紫陽花は見事で、乗客の眼を楽しませてくれます。湯本から徐々に登っていくため、満開の時期が異なり、長い期間に渡って紫陽花を楽しむことができます。

紫陽花に囲まれて走る「あじさい電車」(新形車輛「サンモリッツ号」)

満開の時期に合わせて「あじさい電車」が運転され、とくによるライトアップされた紫陽花を見る夜に運行される「あじさい電車」は人気があります。また大平台付近には桜が植えられており、4月にはこの風景も見事です。

満開の桜の下を走る登山電車(大平台付近、旧型車輛)

終着の強羅からは、ケーブルカー、ロープウェイを乗り継ぎ、芦ノ湖の湖畔に行くことができます。ロープウェイの途中には噴煙を上げる大涌谷もあります(立ち入りが禁止となることもあり)。

箱根登山鉄道は、スイスを代表する山岳鉄道の「レーティシュ鉄道」と姉妹提携をしており、現在運行されている車輛の外装は、アルプスを走るレーティシュ鉄道と同じカラーになっています。そのためとくにヨーロッパからの観光客には親しみをもたれています。

最近では魅力ある観光地としての評価が外国人の間で高まり、以前のも増して多くの外国人観光客が訪れるようになりました。

開業130年の歴史ある鉄道

箱根登山鉄道は130年以上の歴史をもっていますが、苦難の連続でした。1888年に国府津=小田原=湯本を結ぶ「小田原馬車鉄道」として開業したのが始まりです。当時の東海道線は国府津から山北・御殿場へと抜けており、鉄道のない小田原を経由し、温泉客を箱根の玄関口湯本まで運ぶことが目的でした。その後、山に沿って線路を敷設する難工事の末、1919年に現在の終点・強羅まで開通しました。

登山線のほぼ中間に位置する宮の下には、すでに「富士屋ホテル」が、西欧様式の本格的なホテルとして営業しており、付近に外国人の別荘建設も進んでいたため、自動車以外の選択肢として、鉄道開通は好感をもって迎えられました。しかし会社の経営は安定せず、関東大震災による被害などもあり苦しい時代が続き、他の会社に吸収された時期もありました。

宮の下に停車中の新型車輛「ベルニナ号」

第二次大戦後は小田急電鉄のグループ会社として存続し、箱根が観光地として発展するのに合わせて、箱根登山鉄道も成長軌道に乗って行きます。箱根登山鉄道の鉄道線は、小田原から箱根湯本を経由して強羅までですが、小田原=箱根湯本間はロマンスカーを始め小田急電鉄の車輛が乗り入れており、これが観光客の増加に貢献しました。

終点強羅駅からはケーブルカーがあり、さらに標高の高い早雲山まで運行しています。このケーブルカーは1921年の開業で、大阪の生駒山ケーブルカーに次ぐ日本で二番目に古い歴史をもっています。早雲山から先は、人気の高い芦ノ湖までロープウェイで繋がり箱根周遊ルートが完成、利便性が非常に向上しました。

箱根観光の中心スポットの「芦ノ湖」

新車の投入と登山鉄道としての設備

現在箱根登山鉄道には、様々な車輛が運行されています。長い間活躍していたのがモハ1形、モハ2形と呼ばれる、強羅開通時から運行していた旧形の車輛です。しかし老朽化のため、2019年7月の段階で、すべて新型車輛に置き換えられています。代わって登場した新型車輛は、1982年にベルニナ号(1000形)から導入にはじまり、その後、1989年にサンモリッツ号(2000形)、2015年にアレグラ号(3000形、3100形)と、3種類が導入されています。デザインの優れた鉄道車輛に対し、鉄道ファンなどの投票などにより選ばれる賞も獲得しています。ベル二ナ号がブルーリボン賞を、アレグラ号がローレル賞を受賞しています。

惜しまれつつ2019年7月に引退した旧型車輛モハ1形

山岳鉄道であるため、急勾配を登る仕組みも大切です。箱根登山鉄道は、アプト式などの補助車輪やケーブルに頼ることなく走る鉄道では、日本で最も急な勾配を登る鉄道として知られています。最高80パーミル(1000m走行し80m登る)の勾配を登っていきます。軌道が通常より広くして急カーブに対応できるほか、強力な電動モーターとブレーキがあります。急坂を登るため、途中で方向転換をするスイッチバックが3か所あり、滑り止め対策として、砂を散布しながら走ることも出来ます。こうした工夫がされ、毎日の運行が確保されています