日本国内はどこへ行っても魅力的な鉄道が走っています。
鉄道旅は、他の交通機関では味わえない、その地域の魅力を感じることができます。
ここでは、日本の鉄道旅の魅力をシリーズでお伝えします。
今回紹介するのは、日本を代表する世界自然遺産となっている「白神山地」のすぐ傍を日本海の海岸線に沿って走るJRの「五能線」です。五能線起点はJR奥羽本線の東能代で、そこから分岐し、再び奥羽本線の川部までの路線で、観光目的のリゾート列車も走っています。

人気の観光列車「リゾートしらかみ」

五能線は地方を走る典型的なローカル線で、運転本数も極めて少ない路線です。そのため起点となる東能代と終点の川部の間約150kmを通して運転される列車は1日に3本程度で、あとは途中駅で折り返す区間運転の列車が中心になります。また秋田始発、弘前始発となっている列車も多く、中核都市へ向かう住民の利便性も考慮されています。海岸のすぐ傍を走る区間が多くあり、車窓からの絶景が最大限楽しめる路線です。

このローカル線で活躍しているのが、観光列車の快速「リゾートしらかみ」です。不定期列車のため、毎日は運転されてはいませんが、非常に人気が高いため年間250日以上は運転されています。

乗客の利便性を図るため、1日3往復運転されることが多く、始発は下りが秋田から終着の青森(一部は弘前)まで、上りは始発の青森(一部は弘前)から終着の秋田までを結んでいます。

東京など関東地方から朝一番の秋田新幹線を利用し、秋田駅で「リゾートしらかみ3号」に乗り継ぎ、絶景路線を満喫し、夕方までには、弘前や青森に行くことができます。通常、上下3往復が運転されており、それぞれの編成ごとに「青池」「橅」「くまげら」と、白神山地を代表する愛称がつけられています*。

車輛も、それぞれ青、緑、赤が基調のカラーリングもされており、とくに緑が基調の橅編成は、2016年運行開始の3編成の中では最も新しい設備を備えた斬新な車輛です*。

秋田を出発、一路白神山地へ

「リゾートしらかみ」は、すべて4両編成の全席座席指定の快速列車で、普通座席だけでなく、グループで利用できるボックス席も用意されています。指定券の購入が必要です。普通座席の場合は、海側となるA席がお勧めです。秋田から終着の弘前・青森まで、約5時間の列車旅です。

斬新なデザインの「橅」編成の車内

秋田を出ると奥羽本線を一路北へ進みます。東能代まで来ると、進行方向が反対になり、ここから五能線に入ります。最初の停車駅が能代で、ここは米代川の河口付近にあり、かつては製材業で栄えた街で、現在はバスケットが非常に盛んです。

能代を過ぎると、進行方向の右手に白神山地がしだいに見えてきます。白神山地は、1963年に日本で初めてユネスコ世界自然遺産に登録されました。秋田県と青森県にまたがり、ブナの原生林が有名です。同時に車窓の左側には、日本海の絶景も見えてきます。列車は、あきた白神、岩舘と白神山地を見ながら停車していきます。あきた白神駅は白神山地への南の玄関口にあたり、女性駅長が出迎えてくれます。

十二湖駅で降り15分ほどバスに乗ると、有名な青池に代表される十二湖や、白神山地へと連なるブナ林などを散策できます。

十二湖で最も有名な青池

ブナ林などを見ながらのトレッキングも人気があります。ここで降りて散策をし、次に来る「リゾートしらかみ」に乗車することも可能です。次のウェスパ椿山駅の駅前には、展望温泉と宿泊を備えた駅と同名の「ウェスパ椿山」があります。とくに夏の観光シーズンには多くの観光客でにぎわいます。

トレッキングが人気のブナの林

深浦、千畳敷は海岸線の絶景が

五能線のほぼ中間地点となる深浦付近も海岸線を走ります。深浦の手前に、黄金崎不老不死温泉という、海に面した絶景の露天温泉があります。深浦は漁業で栄えた町で、五能線の主要駅となっています。ここで折り返し運転をする列車も何本かあります。日本海の絶景が車窓に広がります。とくに天気の良い日は、日本海へ沈む夕陽を見ることができます。

深浦駅では上下の「リゾートしらかみ」が行き違い
日本海の絶景が車窓に広がる

深浦から海岸線を走り三つ目の轟木駅は、最近ブームの「秘境駅」の一つです。映画「寅さんシリーズ」の撮影や、JRの青春18きっぷのポスターの舞台となった駅として有名です。日本海を望む海辺にポツンと待合室だけがあり、マニアにとっては是非訪ねてみたい駅になっています。ただし「リゾートしらかみ」は、この駅には停車しません。

海辺の秘境駅として人気が高い「轟木駅」

その先の千畳敷駅から広がる千畳敷海岸は、海岸に岩の連なる五能線を代表する景勝地です。200年ほど前の地震の際に、岩礁が隆起し広い岩の石畳が造られました。

千畳敷海岸は沿線を代表する景勝地

「リゾートしらかみ」の上下各2本が、ここに15分程度停車するため、乗客は海岸までのミニ散策を楽しむことができます。リゾート列車ならではのサービスを満喫できます。

津軽地方の文化にも接する

その先の主要駅が鰺ヶ沢です。ここも漁業で栄えた街です。鯵ヶ沢を発車すると、列車内に津軽三味線が流れてきます。鰺ヶ沢から乗車した奏者により、特別に車内で演奏されるもので、これも観光列車ならではのサービスといえます。

津軽三味線の生演奏が車内で聴ける

五所川原は立佞武多(たちねぷた)で有名な街です。青森県を代表する夏祭りの「ねぶた」は、その地域によって様々な嗜好がとられています。呼び方も青森市近辺では「ねぶた」、弘前市近辺では「ねぷた」と呼び、特徴も異なります。ここの「ねぶた」は縦に高く伸びた巨大な「ねぷた」で、高さは最高23メートルにもなります。8月のシーズン以外は格納されていますが、3体ほどが「立佞武多の館」に展示され、いつでも実物を見学できます。

五所川原のシンボル「立佞武多」

五所川原は私鉄の津軽鉄道の始発駅で、津軽中里までの列車が走っています*。途中の金木駅は作家・太宰治の生まれ故郷として知られており、駅の近くには記念館もあり、季節を問わず多くの太宰ファンが訪れています。またこの鉄道は、冬には風物詩となっているストーブ列車が走ることでも有名です。

太宰治記念館

五所川原を出ると右手に雄大な岩木山を眺めながら、りんご畑の中を30分ほどで川辺へ着きます。ここが五能線の終着駅で、終点を表す終点標も立っています。多くの列車はここが終点ではなく、向きを変えて弘前へ向かいます。この「リゾートしらかみ」も、弘前さらに青森まで運転される列車があります。

川部駅ホームにある五能線の終点標