自然の神秘に包まれ、四季折々の姿を見せてくれる北海道。
ここでは、北海道在住のジャーナリストが実際に現地を訪れ、その魅力をお伝えします。
今回は、日本最北の不凍湖、厳冬の支笏湖を訪ねました。
(協力:支笏湖ビジターセンター)

厳冬の支笏湖。日の出の瞬間

抜群の透明度。引き込まれるような青い湖水

札幌の南約50km、支笏湖は、観光客にも地元民にも人気の観光スポットですが、そこには自然の神秘、北海道の地史や開拓の歴史がぎゅっと凝縮されています。20年以上、年に何度も訪れる機会がありましたが、一度として同じ顔を見せたことがありません。訪ねるたびに感嘆を誘う支笏湖、そのプロフィルをご紹介しましょう。

2月の初め、かつてない雪不足と暖冬に地元民も戸惑いを感じていた北海道に、久々の雪とこの冬一番の寒波がやって来ました。たった1日で、いつもの冬の姿に装いを替えた日、厳冬の支笏湖に車を走らせました。

支笏湖の最大水深は約360m(平均水深約265m)で、国内では田沢湖に次ぐ深さです。また、この深さのため、貯水量は琵琶湖に次いで全国第2位(20.9㎦)、面積は琵琶湖の9分の1ほどしかないのに、水の量は琵琶湖の4分の3もあるのです。

深いために湖水全体が冷え切らず、結氷することはめったにありません。札幌よりもさらに寒さが厳しい地域ですが、氷点下の日が続く厳冬期も、満々と水をたたえています。日本最北の不凍湖です。しかし寒さがけた外れて厳しかったときには、かつて全面結氷したこともあります。いちばん最近では2001(平成13)年、その前は1978(昭和53)年です。

また、水温が低く、湖岸からぐっと深く落ち込むため、水生植物がうまく育ちません。そのためプランクトンの生息は少なく、水質(COD)は群を抜いており、2018年まで11年間全国1位の座を保っていました。昨年、1位の座を田沢湖に譲りましたが、それは、田沢湖の水質が上がったからで、支笏湖そのものの水質は変わっていません。透明度も高く、船やカヌーの上から湖底の柱状節理や湖に静かに沈む湖底木、変化に富んだ地形を手にとるように眺められます。

支笏湖畔でひときわ目立つ恵庭岳。約2万年前に誕生した。札幌からも見え、今も噴煙を上げている。
湖水は凍らなくても、周囲は氷点下の寒さ。倒木にしぶきがかかるとすぐに凍り始める。

北海道の地史に大きく関わる大爆発

支笏湖は約4万年前の火山活動で、大爆発の末に生じた、日本では屈斜路湖に次ぐ大きなカルデラ湖です。降灰は遠く根室や知床にまで及び、火砕流は日本海から太平洋まで押し寄せたといいます。もちろん札幌にも流れ出し、その地形や地質に大きな影響を及ぼしています。

最初円形だった支笏湖の底や岸に、風不死岳、恵庭岳などの火山が生まれ、ひょうたん形になりました。今も恵庭岳や、溶岩ドームが特徴的な樽前山からは噴煙が上がっています。

支笏湖の7km北西には、恵庭岳の噴火が堰き止めた小さな湖、オコタンペ湖が原生林の中に神秘的な湖面を見せています。このオコタンペ湖は、北海道三大秘湖のひとつとされ、一般の立ち入りは禁止されていますが、上部の道路から見下ろすことができます。

右側が風不死岳、左奥が溶岩ドームが特徴の樽前山。樽前山は今も活発な火山で噴煙を上げている。開拓の歴史の片鱗が残る
湖上の白鳥

開拓の歴史の片鱗が残る

支笏湖周辺は、うっそうとした原始林に覆われています。1908(明治41)年、千歳川に発電所を建設するため、王子製紙苫小牧工場から支笏湖畔、千歳川発電所に至る約40kmに、鉄道が敷設されました。   支笏湖周辺の豊富な森林資源も、運び出され、利用されました。

王子製紙苫小牧工場専用鉄道、愛称「王子軽便鉄道・山線」と呼ばれた鉄道の遺構が、支笏湖温泉の支笏湖ビジターセンターのそばに残っています。支笏湖から流れ出る千歳川に架かった真っ赤な鉄橋「山線鉄橋」がそれです。

鉄道は1951(昭和26)年に廃線となりましたが、その間多くの人や物を運び、鉱山の開発にも利用されました。2020年、ビジターセンターのそばに、当時の歴史を語る「王子軽便鉄道ミュージアム 山線湖畔驛」がオープンしました。

支笏湖が千歳川に流れ出る位置にある「山線鉄橋」。1924(大正13)年に架け替えられたもので、北海道内に現存する最古の鋼橋。

さらに、北海道でも知る人は少なくなりましたが、恵庭岳では、1972(昭和47)年、札幌冬季オリンピックのスキーの滑降競技が行われました。札幌市内の山では競技の基準を満たすコースが作れなかったからです。国立公園内であるため、オリンピック終了後は森林を回復させることを条件に、国が森林伐採を許可しました。半世紀近くたった今も、まだ森林回復の途中です。

また、支笏湖にすむヒメマスは、ベニザケが海に降らずに湖に残留したもの。1894(明治27)年に阿寒湖から移入したのを最初に、現在も孵化放流を続けています。日本で最初の移植といわれています。地元では、アイヌ語を元にした「チップ」の名で呼ばれ、すっかり支笏湖の名物になりました。

(左)王子軽便鉄道ミュージアム「山線湖畔驛」内にある、当時の支笏湖畔のジオラマ。(右)支笏湖ビジターセンター内にあるヒメマスの水槽。

寒さを美しさに変える「氷濤まつり」

不凍湖といえども、冬は厳しい寒さが続きます。これを楽しむのが「千歳・支笏湖氷濤まつり」。毎年1月の下旬から2月中旬まで開催され、今年42回目を迎えました。湖水をふきかけて大きな氷のオブジェを造りますが、その神秘的な色に魅了されます。水がきれいで不純物が少ないために、太陽に当たると、「支笏湖ブルー」と呼ばれる神秘的な深い青色を呈するのです。この氷の芸術を皆に愉しんでもらおうと、地元の人々が毎年11月から準備し、寒さに負けず不眠不休で作業にあたっています。


ライブ感がある展示が魅力のビジターセンター

支笏湖の自然や地史は、支笏湖畔温泉にある支笏湖ビジターセンターにわかりやすく展示されています。実物大の苔の洞門のパネル展示や立体模型など、ライブ感のある展示が好評で、湖を眺めながらゆっくりと時間を過ごせますので、ぜひ寄ってみてください。

■支笏湖ビジターセンター
電話:0123-25-2404
開館時間:9:00~17:30(12~3月)9:30~16:30
12月~3月は火曜休館(祝日の場合は翌日)
入館無料

湖畔の木立の中に、支笏湖ビジターセンターと「山線湖畔驛」(右)がある