日本国内はどこへ行っても魅力的な鉄道が走っています。
鉄道旅は、他の交通機関では味わえない、その地域の魅力を感じることができます。
ここでは、日本の鉄道旅の魅力をシリーズでお伝えします。
今回は、春爛漫、東京から日帰りで行ける桜と菜の花を愛でる房総ローカル鉄道の旅です。

房総横断切符で小湊鉄道へ乗る

小湊鉄道路線。千葉県市原市の『五井駅』から夷隅郡大多喜町の『上総中野駅』までを結ぶ。所要時間は目安です

春の旅行シーズンに欠かせないのが美しい花です。東京から日帰りで行ける房総半島の中央を走る列車旅は、まさに春がお勧めです。内房線の五井駅から「小湊鉄道」で終点の上総中野まで、そこで「いすみ鉄道」に乗り換え終点の大原まで、この沿線には菜の花と桜が咲き誇っています。

千葉県を走るJR内房線の五井から、房総半島を走る「小湊鉄道」に乗り換えます。ローカル私鉄のため、列車の本数は少なく事前に時間を調べておく必要があるでしょう。関東では少なくなった2色のツートンカラーの気動車が見られます。

五井を出発するとのどかな田園風景が広がり、線路沿いには菜の花が目につきます。途中駅の上総牛久までは比較的本数が多いので、それに乗車し、菜の花満開の駅で下車して、散策するのもいいでしょう。途中から終点まで行く上総中野行きに乗車し、途中の車窓を愉しむことができます。

菜の花の前を走る小湊鉄道の列車(上総山田駅)

沿線の中心駅の上総牛久を過ぎると、丘陵地帯へと入っていきます。それぞれの駅が桜の名所といなっています。特に、上総鶴舞、里見、飯給、月崎などの駅周辺には、桜の木が多く植えられ、週末ともなればカメラ愛好家が大挙して訪れます。桜と菜の花が同時に楽しむことが出来る最高の季節といえます。

また、どの駅も昭和を感じさせるレトロな雰囲気が漂っており、下車したくなる衝動に駆られます。ただ途中下車してしまうと、列車は2時間に1本程度ですので、時刻表との相談が必要になります。

桜がいっぱいの駅に停車(上総鶴舞駅)
桜が咲く駅へ入線(里見駅)

桜の季節には大勢のカメラマンが

沿線人口が減少しているため、上総牛久から先の運行ダイヤは極端に運転本数が少なくなります。鉄道事業だけでは赤字経営なのでしょうが、保有するバス路線が内房地域で充実しており、小湊鉄道の経営を支えているといえます。そのため、鉄道車輛の新造や駅舎の改築など、収益性の低い事業への積極的投資は行っていないように思えます。

週末を中心に上総牛久と養老渓谷の間を「トロッコ列車」が、日に2~3往復走っています。機関車(SLではない)を先頭に4輌ほどの客車を引いて走り、とても人気のある観光列車です。途中、里見と月崎の2駅には停車するので、この列車に空席があれば指定券を購入し、乗車するのもいいかもしれません。

週末を中心にトロッコ列車が走る(月崎駅)

ただし終点の上総中野までは行かずに、一つ手前の養老渓谷駅で終点となっています。養老渓谷は、川遊びなどもできる沿線を代表する観光地で、子どもや家族連れに人気があります。渓谷内にある大きな滝や癒しのパワースポットが話題となっています。養老渓谷の駅を過ぎると、小湊鉄道の終点の上総中野です。

いすみ鉄道も魅力がいっぱい

いすみ鉄道路線。千葉県いすみ市の『大原駅』から千葉県夷隅郡大多喜町の『上総中野駅』を結ぶ。所要時間は50分強です。

上総中野で「いすみ鉄道」と接続しているので乗り換えます。いすみ鉄道は、旧国鉄時代は路線名を木原線といい、外房の大原から内房の木更津を結ぶ線路として計画されていました。途中で建設が頓挫し、上総中野で小湊鉄道と繋がり、現在は第三セクターの路線となっています。

上総中野を出ると、しばらくは丘陵地帯をゆっくりと走ります。線路沿いには、菜の花が一面に咲き誇っている風景が続きます。丘陵地帯を少しずつ降りてくると、桜の木も目立ってきます。途中の総元や東総元あたりになると、駅の周りが桜で囲まれています。ここにも季節の良い時期には、カメラを抱えた人たちが大勢います。しばらく列車に揺られ左手高台にお城が見えてくると、いすみ鉄道の中心となる駅の大多喜です。

桜と菜の花の間をいすみ鉄道が走る(久我原・東総元間)
水田と桜、菜の花の間を抜けて(新田野・上総東間)

大多喜を過ぎると、平坦な土地が多くなります。途中、国吉、上総東といった比較的大きな駅があり、ここにも菜の花と桜があり、楽しい旅を続けることができます。写真⑥ また国吉駅には、以前走っていた車輛も屋外展示されており、鉄道ファンであれば、興味深く見ることが出来ます。上総東をすぎると、鉄道の名称にもなっているいすみ市の中心・大原駅に着きます。ここがいすみ鉄道の終点となります。

経営改善に向けたアイデアも

いすみ鉄道の中核となる大多喜駅には、いすみ鉄道の本社があり運行上の拠点となっています。またここから徒歩圏内に行ける大多喜城も有名で、桜の名所にもなっています。いすみ鉄道は、鉄道中心の会社のため、沿線人口減少の影響で苦しい経営が続いています。社長自ら先頭に立ち、観光列車の運転を始め、駅名の命名権を販売するなどして増収策を図っています。ちなみに駅名命名権では、大多喜駅には「デンタルサポート」、最初に命名権が売られた久我原駅には「三育学院大学」の冠名が付いています。

運行されている気動車は小湊鉄道と比べると新しい車輛です。通常運行の車輛に加え、JRから2輌の古い気動車を導入したことも、観光客の誘致が大きな目的です。初めて導入したのが、かつてJR大糸線を走っていたキハ52形、次いでJR西日本で急行用にも運行されていたキハ28形です。

大糸線からやってきた旧JRのキハ52形(国吉駅)
急行用で運用されるきもあるキハ28形(上総中野駅)

どちらもJRでは、現在ほとんど運転されていないため、かつての姿を懐かしく思う鉄道ファンを呼びこもうとする戦略です。この2輌は、週末を中心に急行料金を必要とする優等列車として運行されることが多く、時間帯によってはレストラン列車として運行しています。また観光客誘致のため、小湊鉄道に働きかけ、大原から五井までの直通運転計画にも、積極的な姿勢を示しています。