長く複雑な海岸線から、内陸の山岳地帯まで、高低差も大きく変化に富んだ地形の島国・日本。それぞれの環境に合わせ、さまざまな樹木が組み合わさって、多種多様な森林を形成しています。ここでは植生の違いを中心に分類しつつ、ぜひ訪れていただきたい、魅力あふれる森をご紹介します。
厳寒期の風雪の強大さを思い知らされる
日本人の誰もが心に宿す山といえば富士山だろう。標高3776mを頂点にして、円錐形に山裾を引く優雅さに、昔から人々は魅了されてきた。
もうだいぶ前になる。森の撮影をするようになって、富士山の中腹から山麓にかけて、豊かな森林が存在することを知った。それを印象づけたのは、五合目近くの奥庭を訪ねた時であった。ここは風衝地で火山礫が堆積しており、コメツガやカラマツは風雪の影響により奇形樹と化している。なかでもカラマツが凄まじく、まるで大蛇がのたうち回るようにも思える屈曲した樹形を露わにする。さらに異様さを際立たせるのは、樹皮が半分剥がれた幹から白骨化した樹芯が剥き出しになっていることだ。この奇形樹を目にすると、厳寒期の風雪の強大さを思い知らされるのであった。
森全体が藍緑色に染まる
かつて私は、赤石山脈の鳳凰山の頂稜部に生えるカラマツの奇形樹をモチーフにして、風衝山稜の厳しい自然環境を表現しようと試みたことがある。その時は撮影テーマを顕著にするために白黒写真で撮影した。それが私の写真家としてのデビュー作品になったのだが、鳳凰山での撮影意識は、いまなお私の作品作りの礎となっている。
中腹の標高1900mから1300m辺りの森は素晴らしい。この標高になると強風の影響は和らぐので、樹の生長が妨げられることはなく樹高が高い。私が好む森は、南側中腹の温帯林から亜高山帯針葉樹林へ移行する標高にある。森の構成樹種はウラジロモミやシラビソなどの常緑針葉樹と、ミズナラやケヤキ・イロハモミジなどの落葉広葉樹だ。
つい最近、その森を訪れた時は低気圧が近づいてくる日で、霧雨が森に降り注いでいた。早春、林床に芽吹いたバイケイソウの葉はすでに枯れだしていたが、盛夏に花を咲かすテンニンソウの若葉が木々の根元一面に群生していた。この季節だと、まだ初夏のみずみずしい緑葉が樹枝に茂っている。そのせいで霧に包まれた時は、森全体が藍緑色に染まるのである。
不気味さが青木ヶ原樹海の魅力
富士山の森といえば、すぐに思い浮かぶのが青木ヶ原樹海だ。ここは富士山北西山麓に広がる広大な森林帯で、富士五湖のうち四つの湖水を点在させている。今から1200年ほど前、噴出した溶岩はそれまで茂っていた原生林を焼き尽くし、噴火が治った後に黒々とした溶岩台地を出現させた。その痕跡が風穴や溶岩樹型である。それから歳月を重ね溶岩地帯に天然林が再生されたが、まだ極相林には至っていない。溶岩が露出したままの場所が多く、わずかに蘚苔類が覆っている所では、溶岩にへばりつくように太い根を這わせたツガやモミ・ヒノキなどが育っている。要するに青木ヶ原ではいまだに表土が薄く、樹が育つ正常な環境が整っていないのである。そんな林内に入ると黒墨色の溶岩と日差しを遮る針葉樹の相互作用によって生み出された薄暗い闇が漂っていて、およそ心地良いとは思えない。ただ見方を変えれば、この不気味さが青木ヶ原樹海の魅力とも取れるのである。
森の持つ清涼感に満たされる大室山
富士山の北西側に大室山という側火山がある。ここは青木ヶ原を形成した溶岩流の被害を被らなかったところである。そのせいで火山礫が林床を覆っていて、青木ヶ原樹海とは異なった自然環境が存在する。溶岩地帯に生える常緑針葉樹が少なく、ブナやミズナラ・カツラなどが優占する温帯夏緑林の様相を呈している。そのせいで林内の雰囲気は清涼感に満ちて明るい。大室山へは樹海を通り抜けてゆく。薄暗い林内に施された歩道をしばらく歩き、富士風穴を過ぎると間もなくして突然樹相が変わる。溶岩地帯が消えて、乾燥した火山礫の林床に夏緑樹が生える森になる。この林相の極端な変化に驚かされるが、なによりも夏緑樹の森の爽やかさが心地よく、森の持つ清涼感に満たされるのである。
不気味さが青木ヶ原樹海の魅力
富士山の森といえば、すぐに思い浮かぶのが青木ヶ原樹海だ。ここは富士山北西山麓に広がる広大な森林帯で、富士五湖のうち四つの湖水を点在させている。今から1200年ほど前、噴出した溶岩はそれまで茂っていた原生林を焼き尽くし、噴火が治った後に黒々とした溶岩台地を出現させた。その痕跡が風穴や溶岩樹型である。それから歳月を重ね溶岩地帯に天然林が再生されたが、まだ極相林には至っていない。溶岩が露出したままの場所が多く、わずかに蘚苔類が覆っている所では、溶岩にへばりつくように太い根を這わせたツガやモミ・ヒノキなどが育っている。要するに青木ヶ原ではいまだに表土が薄く、樹が育つ正常な環境が整っていないのである。そんな林内に入ると黒墨色の溶岩と日差しを遮る針葉樹の相互作用によって生み出された薄暗い闇が漂っていて、およそ心地良いとは思えない。ただ見方を変えれば、この不気味さが青木ヶ原樹海の魅力とも取れるのである。