日本国内はどこへ行っても魅力的な鉄道が走っています。
鉄道旅は、他の交通機関では味わえない、その地域の魅力を感じることができます。
ここでは、日本の鉄道旅の魅力をシリーズでお伝えします。
今回はちょっと懐かしい「鉄道車両の第二の人生」を訪ねてみました。

東急電鉄の車輛が人気の理由は?

大手私鉄の車輛は更新期間が短いため、まだ使える段階であっても、廃車されることもあり、また地方私鉄へ譲渡されています。地方私鉄の中には、複数社から譲渡を受けたため、異なる会社の車輛が混在して運行しているケースもあります。

多くの地方私鉄で活躍が目立つのが、東京南部・神奈川を走る東急電鉄の車輌です。多く譲渡された理由は、早い時期に「ステンレスカー」を導入した歴史があることです。ステンレスカーは軽量で錆びにくい特性があり、地方私鉄が導入するメリットが大きかったと思われます。とくに東急系列の会社を中心に多くの車輛が譲渡されました。

主な譲渡先としては、青森県の「弘南鉄道」、福島県の「福島交通」、埼玉県の「秩父鉄道」、静岡県の「伊豆急行」、「大井川鉄道」、愛知県の「豊橋鉄道」、長野県の「上田電鉄」、「長野電鉄」、富山県の「富山地方鉄道」、石川県の「北陸鉄道」などがあります。比較的古いステンレスカーが多いのですが、第一線で活躍していたステンレスカーが、上田電鉄、福島交通などに譲渡されています。最近まで「熊本電鉄」で運行されていた東急旧5000系は、東急が誇る往年の名車で、現在でも渋谷のハチ公前広場に展示・利用され、多くの人に親しまれています。

上田電鉄の旧東急ステンレスカー(別所温泉駅)

西武鉄道、京王電鉄の車輛も大活躍

東京西部から埼玉県を走る西武鉄道の車輛も、地方私鉄に譲渡されています。資本関係のある静岡県の「伊豆箱根鉄道」や、滋賀県の「近江鉄道」には数多く譲渡されています。さらに、群馬県の「上信電鉄」、千葉県の「流山電鉄」、埼玉県の「秩父鉄道」、三重県の「三岐鉄道」などにも譲渡されています。

伊豆箱根鉄道を走る旧西武の車輛

東京西部を走る京王電鉄の車輛の譲渡先も数多くあります。群馬県の「上毛電鉄」、山梨県の「富士急行」、静岡県の「岳南電車」、長野県の「アルピコ交通」、石川県の「北陸鉄道」、島根県の「一畑電車」、愛媛県の「伊予鉄道」、香川県の「高松琴平電鉄」などで活躍しています。また経営難にある千葉県の「銚子電鉄」では、かつては伊予鉄道を走っていた京王電鉄の車輛が、再譲渡され運行されています。銚子電鉄は慢性的な経営難が続いており、沿線の醤油メーカーと協力して「ぬれ煎餅」をつくり、経営を支えたことでも有名です。

銚子電鉄を走る旧京王の車輛

東京メトロ銀座線の車輛は熊本電鉄に、日比谷線の車輛は長野電鉄に譲渡されています。関西では、阪急電鉄の車輛が大阪の「能勢電鉄」に、京阪電鉄の車輛が「富山地方鉄道」、「大井川鉄道」に、近畿日本鉄道の車輛が「養老鉄道」に、南海電鉄の車輛が「大井川鉄道」に、それぞれ譲渡されています。

地方私鉄の非電化区間には、JR各社の気動車が数多く譲渡され活躍しています。大手私鉄はほとんど電化されているため、気動車はあまりありません。また新幹線開業に伴い、第三セクターとなった路線には、ほとんどJRの車輛がそのまま転籍して運行されています。

大井川鉄道を走る旧南海の車輛

元気に観光地を走る私鉄特急

地方私鉄の中には、温泉などの有名観光地を抱え、そこへ向かう観光客の足として特急電車を走らせている会社もあります。鉄道旅はバス旅とは違って、その風情を肌で感じることができます。例えば、弘南鉄道には大鰐温泉、福島交通には飯坂温泉、富士箱根鉄道には修善寺温泉、富士急行には富士山、長野電鉄には志賀高原、富山地方鉄道には立山連峰が観光地としてあり、中核都市とを結んでいます。

とくに富士急行、長野電鉄、富山地方鉄道は、観光地と結ぶ自社の特急電車を走らせています。長野電鉄の長野=湯田中間には、旧小田急のロマンスカーが、富山地方鉄道の富山=立山間には、旧西武のレッドアローが、特急電車として運行されています。富士急行の大月=河口湖間には、最新型の富士ビュー特急が運行されています。この車輛はJR東海が御殿場線から小田急線に乗り入れていた特急「あさぎり」の車輛を譲り受け、専門デザイナーの手によりリニューアルされたもので、豪華な内装の観光列車となっています。

富士急行自慢の富士ビュー特急(富士山駅)

過疎化とマイカーの普及で厳しい経営が。

地方に鉄道各社の経営は決して安泰ではありません。その原因は過疎化による人口減とマイカーの普及です。沿線の自治体が存続をめざし補助金を組むなどの支援策をとっていますが、それでも廃線に追い込まれた鉄道がいくつもあります。例えば東北地方でここ20年の間に、十和田観光電鉄、南部縦貫鉄道、くりはら田園鉄道などが、惜しまれながら廃線となりました。JR各社、とくにJR北海道がまさに同様の悩みを抱えており、最近でも廃線や路線の短縮が相次いでいます。

くりはら田園鉄道は惜しまれて2007年に廃線、2006年石越駅にて)

経営が苦しいため、老朽化した車輛を更新することは非常に困難です。無理をして老朽化した車輛を使うよりも、大手で現役に近い車輛を譲渡してもらうほうのメリットは大きいといえます。都市部の大手私鉄では、会社間の競争が厳しく、乗客へのサービス向上のため、まだ十分走れる車輛も更新しています。こうした車輌を譲渡されることにより、地方の私鉄としても、新規の車輛を購入することなく、住民サービスができるというメリットがあります。