長く複雑な海岸線から、内陸の山岳地帯まで、高低差も大きく変化に富んだ地形の島国・日本。それぞれの環境に合わせ、さまざまな樹木が組み合わさって、多種多様な森林を形成しています。ここでは植生の違いを中心に分類しつつ、ぜひ訪れていただきたい、魅力あふれる森をご紹介します。
今回は、南の島に広がる海辺の森、西表島です。
写真&文 : 石橋睦美 Mutsumi Ishibashi
Keyword : 亜熱帯林 / マングローブ / サキシマスオウノキ / ギランイヌビワ / 浦内川ヤエヤマヒルギ / オヒルギ林
汽水域にたくましく生きる環境に適応したマングローブ
亜熱帯林は、暖温帯気候域に分布する照葉樹と同じように、常緑広葉樹が茂る森です。亜熱帯気候域を故郷にする樹木ですから、寒い地方では生育することはできません。しかし、日本列島を囲む海には暖流が北上していますので、その影響で四国や紀伊半島、伊豆半島などにも亜熱帯を故郷にする樹木が見られます。アコウやタブノキなどです。
日本の国土で亜熱帯林が茂る場所として代表に挙げられるのは、南西諸島と小笠原諸島です。ただ小笠原諸島の母島にある石門の原生林は、沖縄の森とは樹種が異なります。それは小笠原諸島が洋上に隆起して以来、一度も陸続きになったことのない大洋島であるからで、独自の進化を遂げた特産の樹木が多いのです。巨樹としてほとんど伐り尽くされたオガサワラグワのほか、シマホルトノキやウドノキがあり、マルハチやタコノキなど特異な形をした植物にも出会えます。
一方、琉球列島の先島諸島にある亜熱帯林は、西表島や石垣島で見ることができます。その代表がマングローブです。
マングローブとは、樹種の名称ではなく、森の形そのものをいいます。かんたんにいえば海岸線に発達し、満潮時に根元が海水に浸かる森のことです。樹は根元が水に長い間浸かっていると窒息してしまいます。そこでマングローブに生える樹は、窒息を防ぐために気根に酸素を蓄えて潮が引くのを待つのです。
西表島のマングローブの構成樹であるヤエヤマヒルギなどが茂り土壌を安定させると、周辺に高木になる樹が茂り、鬱蒼とした亜熱帯林が出現するのです。
西表島の仲間川を船で遡ると、板根が際立つサキシマスオウノキを見ることができます。川畔にはマングローブが発達し、ヤエヤマヤシの群生も見られます。また浦内川の下流域ではヤエヤマヒルギの群生地があって、干潟にマングローブが侵入する様子が望めます。さらに浦内川を遡ってカンピラ滝へ。上流の船着き場から滝まで森を探勝しながら2時間ほど歩くと、木性シダのヒカゲヘゴやヤシ科のコミノクロツグが亜熱帯林の息吹を感じさせてくれることでしょう。
<この森に生きる木>
■マングローブの構成樹7種
①ヤエヤマヒルギ ②メヒルギ ③オヒルギ ④マヤプシギ ⑤ヒルギモドキ ⑥ヒルギダマシ ⑦ニッパヤシ
■周辺の高木
①サキシマスオウノキ ②サガリバナ ③ギランイヌビワなど