お正月に使われるイメージが多い漆器。純白の肌に鮮やかな色を乗せた磁器。大胆な柄が一面に躍動する大ぶりな陶器――。
そんな器たちは、見るだけで楽しく場を華やがせてくれる反面、“特別な日のもの”というイメージが強くありませんか?
でも、現代の名工たちの器には、普段の食卓がワンランクアップする魔法の器がいっぱい! フードスタイリストの鈴木理乃さんに、作家物をオシャレに使いこなす盛り付けのコツを伺いました。

「食器は料理のきもの」 大家・魯山人の言葉を実感する器たち

料理家、陶芸家、書家……。さまざまな顔を持ち、食と芸術への追求に一生を捧げた北大路魯山人。彼は、自らの料理を盛りつける器を作るほどに“料理と食器の整合性”“互いを引き立てる美”にこだわったことでも知られます。良い料理には良い器が必要で、盛りつけられた佇まいも含んで美味さであると主張しました。

「いい器がない」と彼の人が嘆いた時代から約1世紀、今や器も個性の時代になり、漆器や陶磁器においても、「現代の食卓に合うもの」「和も洋も受け止められるもの」が増えています。

伝統の美に惚れ惚れとし、料理を盛りつけて新しさに心浮き立つ。現代の名工が手掛けた器で料理を彩るヒントを実際に見ていきましょう。

削りの荒さが魅力の漆塗盛鉢には骨付き肉を豪快に。凛とした染付の矢羽根平丸皿にはカラフルな野菜を鮮やかに。

分業が一般的な漆器の世界において、下塗りをする前の木地の細かいディテールも監修し、塗り・蒔絵を自ら手掛ける箱瀬淳一さんが手掛けた漆塗り盛鉢(上)。現代的なモチーフの蒔絵で知られる箱瀬さんですが、シンプルな塗りだけの漆器も数多く手がけており、木地の形や漆の質感を大切にしています。

「鉢の底から口に向かって渦巻き状に入れられた削り。その荒さ、木地の厚みに、ワイルドな骨付き肉の盛りつけが合うと思いました」と鈴木理乃さん。深さのある器なので、盛りつけも高く立体的に。また、深みのある赤の世界を崩さないよう、食材もワントーンで揃えています。漆器に肉。破天荒とも思える組み合わせが、これほどにしっくりと収まりました。

下は、やはり生地のデザインから絵付けまでを手掛け、「現代の食卓に合った有田焼」を発信し続ける寺内信二さんの矢羽根平丸皿。昔ながらの図柄である矢羽根が放射状に染付で描かれ、スタイリッシュな印象です。

「青に合う色彩の野菜を集めて、グリルしたあとピクルスにしました。矢羽根が利いているので、この一皿だけでも写真映え抜群! 深さがあるから汁気があるものでも大丈夫なのも使い勝手のいいポイントです」。

インパクト抜群の矢羽根ですが、じつはこんなに多彩な色を受け止めてくれる柔軟性に脱帽。こんな一皿が夏にビールと出てきたら、それだけで眼福、口福ですね。

箱瀬淳一作「朱塗盛鉢」×ラムチョップ・ハーブマリネソテーとイチジクのサラダ

<材料>(2人分)
ラムチョップ4本(余分な脂を取る)
〈マリネ液〉
 白ワイン……大さじ3
 おろしニンニク……小さじ1/2
 タイム……3本分の葉(刻む)
 ローズマリー……1/2本分の葉(刻む)
 砂糖/塩……各小さじ1
 ホワイトバルサミコ(or白ワインビネガー)……小さじ1
〈つけあわせのサラダ〉
 イチジク……2個
 トレビス……3枚
 オリーブオイル……大さじ1
〈バルサミコソース〉
 バルサミコ……大さじ2
 ウオッカ……大さじ1
 塩……ひとつまみ
 コショウ……少々

<作り方>
①マリネ液を混ぜ合わせ、ラム肉によくもみ込んで、一晩寝かせる。
②イチジクをよく洗い、1個を4~6等分に切り、ちぎったトレビス、オリーブオイルとさっくり混ぜ合わせておく。
③フライパンにバルサミコを煮立たせて、ウオッカと塩、コショウを入れて煮詰めてとろみを出す。
④別のフライパンを熱して、ラム肉を色良く焼く。器に焼いたラム肉にバルサミコソースをかけサラダを添えていただく。

■寺内信二作矢羽平丸皿×グリルした季節の野菜のピクル

<材料>(2人分)
万願寺トウガラシ……2本
ゴボウ(細めのもの)……(15cmくらい)2本
ミニパプリカ……4個
丸ズッキーニ……1/2個分(種の部分は外す)
〈ピクルス液〉
 酢……200ml+水……60ml
 クローブホール……4粒
 黒コショウホール……7粒
 赤唐辛子(小)……1本
 ローリエ……1枚
 パプリカパウダー……小さじ1/3
 砂糖……小さじ1
 塩……小さじ1/2

<作り方>
①鍋にピクルス液の材料を入れ、ひと煮立ちさせておく。
②グリルした野菜を適当な大きさに切り、ピクルス液につかる大きさの容器に入れて温かいうちに①を入れて一晩つける。

ケルト文様が印象的な陶器にはゴロゴロショートパスタを。無骨さが魅力の漆椀には、あえてイタリアのデザートを。

益子に窯を構える鈴木稔さんは、地元の土や釉薬の材料を自ら集め、ブレンドして、「割型」という型を使った製法や、ケルト文様を取り入れるなど、ぬくもりとモダンが融合した器を制作。今回使った「ケルティック柄平角皿」(上)も波のように踊る青緑のケルト柄が目を引きます。

「この柄からインスピレーションを得て、大きなショートパスタで遊んでみようと思いました。輪っかが増殖したようなイメージで。土物の力強さ、大胆な図柄が、ゴロゴロと強めの素材でも受け止めてくれます」。

輪っかが増殖というアイデアが面白い! そして、盛りつけられてみれば確かにケルティック柄とパスタが一体感抜群です。材料に使われているアプリコットも、緑釉と飴釉に合わせた色で、まさに「器で料理を着飾って」いますね。

最後は、マットな仕上げが重厚感を放つ岩本忠美さんの漆器「汁椀 くり」。塗りももちろんですが、岩本さんの真骨頂は手の中で木の声を聴くかのようにひと彫りひと彫り形作っていく木地作りにあるように思います。重箱は上にいくほど少し小さく。汁椀はほんの少し楕円形にする方が、美しく見える。手で触れながら原木の持つイメージを大切に作る器は、個性たっぷりです。

「これを見た瞬間、“漆器は和食だけじゃない!”と心躍りました。大きめで、高台もそこそこの高さがあり、コンポート皿のような使い方もできるなと思って、イタリアのスイーツ“カッサータ“をチョイスしました。木の椀は熱伝導が悪いので、実はアイスクリームを盛るのも理にかなっています。和栗の渋皮煮で器の持つ渋さとデザートの軽やかさを結んでいるのもポイントです」と鈴木理乃さん。

黒い深淵の中に、白いスイーツが浮かび上がっているように映えるこの取り合わせ。何げない日にそっと出されたお茶請けだったとしても、一生心に残りそうです。

■鈴木稔作「ケルティック柄平角皿」×ゴルゴンゾーラとアプリコットのショートパスタ

<材料>(2人分)
パケッリ(ショートパスタ)……160g
ゴルゴンゾーラチーズ……40g
ドライアプリコット……25g(細切り)
クルミ……15g
白ワイン……30ml
生クリーム……100ml
バター……5g
塩・粗挽きコショウ……少々
粗塩……茹で用10g
  オリーブオイル……適量

<作り方>
①鍋に1ℓほどの湯を沸かし、粗塩を入れて約1 4 分、パケッリをゆでる。
②その間にフライパンに白ワインをひと煮立ちさせて、ゴルゴンゾーラチーズ、生クリームを溶きながら混ぜる。少しとろみがつくまで弱火で煮つめて、ドライアプリコットを加えて混ぜる。
③塩と粗挽きコショウ、バターで味をととのえる。
④フライパンのソースとパスタを和えて器にもり、粗く刻んだクルミ、粗挽きコショウ、オリーブオイルをかけて仕上げる。

岩本忠美作汁椀くり×クリの渋皮煮とラム漬けナッツのカッサータ

<材料>(パウンド型1個分)
リコッタチーズ……250g
卵白……卵2個分
生クリーム……200ml
グラニュー糖……18g
〈中身〉
 クリの渋皮煮……5個(2~3かけずつに大きめに切る)
 レーズンミックス……20g
 ピスタチオ……40g
 カカオニブ……小さじ2
 ラム酒……大さじ1
 はちみつ……大さじ1

<作り方>
①中身の具材にラム酒、はちみつで下味をつけ、全て混ぜ合わせてなじませる。
②卵白、生クリームとグラニュー糖を合わせたものを、それぞれつのが立つ程度まで泡立てる。リコッタチーズ、下味をつけた中身の具材とさっくり混ぜ合わせる。
③パウンド型に流し入れ、6時間~一晩冷蔵庫で冷やし固めて、切り分けていただく。