どこでも手に入る身近な花を、手持ちのグラスやマグカップ、お皿などを使って手軽に生けてみませんか?花道家・大久保有加さんが贈る、ハッピーでポジティブな花のある暮らしのエッセイといけばなレッスン。
今回の花材は「和ばら」と「茶花」です。
いけばな・文 : 大久保有加 Yuka Okubo / 写真 : 新美 勝 Masaru Niimi
花を生けて、手入れし、生活に良い循環を生み出す。
花は一輪や二輪の少ない本数を飾ると、より印象的に美しく感じることができます。ボリュームが多いほうが良いと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、たくさんの本数があると、一輪ずつの花の存在感を弱めてしまうこともあるのです。葉や枝を思い切って間引き、一輪の花を印象的に輝かせることに、気持ちを向けてみてください。
また、素材としての花を理解することも大切。まず一種類の花をよく知り、その上で飾る場所や器などのTPOに合わせて生けていくと、花と向き合いやすくなります。その後、花、場所、器の組み合わせを自由に変えて、楽しんでみてください。
花を生けた後のお手入れも、楽しみの一つ。水は毎日変えることがベストです。その際もゆっくり花と向き合います。慣れないうちは、丁寧に手入れをするためにも、生ける花の本数は少なめが良いでしょう。一日の中にそういった時間を持つと、リズムができて、日常に花が入ってくるのです。気持ちに余裕がないとできないことかもしれませんが、花は今の自分の精神的なゆとりを知るバロメーターとなります。
花は生きているので、生命力があり、飾るとエネルギーをもらうことができます。模様替えしたときのように、見えない空間にある気配が変化します。それは「場」が変わるということ。花と関わり、生けたり、手入れしたり、空間の変化を感じたりすることで、人間にも良い循環が生まれ、そのエネルギーを本当の意味で取り入れることができます。
とくに切花は命に制限を与えられ、花を咲かそうとするパワーが凝縮しているものなので、その瞬間に生ける人が深く関わることで、花の存在感や価値はさらに高くなります。
切花は朽ちてしまうからこそ美しい。一日一日、刻々と花の表情や発するエネルギーは変化していくことでしょう。その変化を感じられる時間の豊かさを体験してみてください。
1.和ばら・かご
二種類のバラを葉でつなぐ。
一本の茎に一つの花が咲く一本咲きの「一心」と、一本の茎に複数の花が咲くスプレー咲きの「いおり」の組み合わせ。葉で二種類の花とかごをつないでいくように生けました。おとしに素材感のある焼きものの湯のみを使い、安定感を出しています。
2.茶花・かご
後ろから前へ向かう動きを作る。
カザグルマはクレマチスの一種で日本の野生種。かごの取っ手を生かし、つるを絡めて器と一体化。かごの取っ手を縦に、おとしのグラスを後方に配置することで、花の流れにも奥行きを出しました。前に向かって広がるつるが躍動感を演出。
3.和ばら・ピッチャー
花が咲いていくプロセスを表現
大輪の花を咲かせる「茜」のみを使い、咲き加減が異なる2本の枝を組み合わせて、つぼみから満開へと花が咲いていくプロセスを表現しました。ピッチャーの柄をアクセントに、和ばらの枝ぶりが持つ線を生かしています。
4.茶花・ピッチャー
枝ぶりで流れるような動きを描く。
柄を右にして器を置き、左に伸びる枝を選び、流れるような動きを表現しました。ツバキの葉は独特の存在感があるため、重なり過ぎる部分は、適度に間引き、余白を作ることが大切。抜け感が出てくると爽やかな印象になります。
5.和ばら・グラス
曲線を描く葉が白い花を引き立てる。
和ばらの茎のしなやかさを生かし、曲線を描くように葉を生け、白い花の表情を引き立てました。すりガラスなどの半透明のグラスは、透明感はそのままに、水中での茎のラインを気にせずに生けることができ、花の表情をクローズアップできます。
6.茶花・グラス
つる性の柔らかな動きを生かす。
右はつる性のリキュウソウの伸びる線の表情を生かし、左は葉を間引き、茎を絡めながら曲線の美しさを生かしました。左右でリキュウソウの異なる表情を作っています。すりガラス越しに、控えめに感じられる水と茎の気配が、清涼感を伝えます。