穀雨 こくう

子どものころは不思議でしかたがなかった。冷たい雨が降ったり、天候が下り坂になると、大人たちはこめかみを押さえ、しかめつらして名残惜しげにストーブのまわりに集まってくる。片付けてしまわなくてよかったといいながら、シューシューと湯気を立てるやかんを脇にずらしてかき餅を焼いたりする。畑に出るのが一日遅れて、それがうれしそうだ。

大人とはややこしくめんどくさいものなのだなと思いながら、早く雨があがって日が出て、ひばりの巣を河原にさがしに出かけるのを心待ちにしていた。

いまはめぐみの雨というにはいささか激しい風雨が、まだやわらかな梅のちぢれた若葉を吹きとばさんばかりにしている。(水城ゆう)


春季の最後の節気。この時期に降る雨は百穀を潤し発芽を即す雨の意「百穀春雨」といわれ、この恵みの雨で潤った田畑は種蒔きの好機を迎えます。川辺の葦が芽吹き、霜が降りることもなくなり、牡丹の花が咲く麗しい季節。吹く風は時に初夏を思わせ、穀雨が終わる頃、八十八夜を迎えます。

七十二候 穀雨初候・4月20日 葭 始 生 あし はじめてしょうず

七十二候 穀雨次候・4月25日 霜止出苗 しもやみて なえいず

七十二候 穀雨末候・4月30日 牡 丹 華 ぼたん はなさく

リキュウバイ

バラ科ヤナギザクラ属の落葉低木。清楚な花が茶人に好まれ、千利休の命日の頃に咲くことから「利休梅」の名が付いたといわれている。

ピアノ語り: 水城雄 Yu Mizuki

1957年、福井県生まれ。東京都国立市在住。作家、ピアニスト。音読療法協会ファウンダー、現代朗読協会主宰、韓氏意拳学会員、日本みつばち養蜂(羽根木みつばち部)。
20代後半から商業出版の世界で娯楽小説など数多くの本を書いてきたが、パソコン通信やインターネットの普及にともなって表現活動の場をネットに移行。さらに2001年にみずから現代朗読というコンテンポラリーアートを打ち立て、マインドフルネスと音楽瞑想の実践を深め、2007年にはNVC(=Nonviolent Communication/非暴力コミュニケーション)と出会い、表現活動の方向性が確定する。表現と共感、身体と感覚、マインドフルネスと瞑想の統合をめざし、いまこの瞬間のナマの生命のオリジナルな発露をテーマに表現活動と探求の場作りをおこなっている。

絵: 朝生 ゆりこ Yuriko Aso

イラストレーター、グラフィックデザイナー。東京藝術大学美術学部油画科卒。雑誌、書籍のイラスト、挿画などを多く手がける。 https://y-aso.amebaownd.com

文: 中島有里子 Yuriko Nakajima

一般社団法人めぐりジャパン 代表理事。