朝霧を過ぎ本栖湖に入りいつものように湖畔で空模様を窺う。
雲が厚い、目的地まではまだ一時間以上走る。
30分ほど時間を潰しハンドルを握った。
撮影ポイントに到着、誰もいないことに肩透かしをくう。
間もなく富士らしいシルエットが薄明の厚く黒い雲の筋間に浮かぶ、
その光景がただならぬものであることをその時は知る由もなかった。
この朝、人知の及ばぬ大自然の未知の光景を目の当たりにすることになる。
手が震えフィルムがうまく交換できない……、
1分が永遠に思えた。その光景の前に私はもはや粒子の濃淡と化し、
宇宙の一元的広がりの中に溶け込んでいくようであった。
(岳 丸山)
写真・文 : 岳 丸山 Gaku Maruyama
富士山を撮る、ということ
富士山撮影で一番重要なものは想像力である。様々な気象現象をはじめ、地理条件、太陽、地球、月などの天体の動き、光の波長の長さや角度による色調の違いなどを撮影条件として頭にインプットし続けることによりその想像力は養われる。そしてあらゆる情報が脳に蓄積されたのちに溢れ出したものが、イマジネーションである。私の場合は3年を費やした。そしてその想像力を頼りに撮影に向かっても10回トライして数枚しか撮れないのが富士山である。