水力発電ダムの雄大さと美しさに惹かれて、ダム観光が人気です。ダム自体の知識があれば、もっと充実した観光ができるはず。ここでは、ダム観光をするために必要水力発電ダムの最小限の知識を解説します。

日本の水力発電の始まり

日本で電気事業が本格化するのは、電気の量り売り(メーター)が実用化された明治中期以降です。明治40年11月3日に創刊された電力業界専門誌「電気新報」(「電気新聞」の前身)の発刊号では巻頭言で「電信電話の開通、無線電信の開設を見るに至り、また電鐵、電燈その他生産的工業の動力として水火力電氣の応用を俟つもの甚だ多し」と、電気による第二次産業革命と電気事業に対する国民の期待を滲ませています。

日本で最初に水力発電所が建設されたのは明治21年のこと。宮城県にあった宮城紡績が造った三居沢発電所(直流5kW)です。記録に残っている発電所としては日本最古の発電所です。

紡績会社や鉱山会社が事業用に建設したもの(自家発)が多かたようです。電気鉄道も続々誕生しましたね。ちょっと変わったところでは、薩摩島津家が造った磯庭園発電所が(明治25年)がありますが既に廃止されています。水力発電所からは当時の人たちの熱い思いが伝わってきますね。

水力発電所の種類と水力

現在、日本には全国に2,200以上の水力発電所があります。1970年代までは日本の電力供給は水力発電が主流でした。

130年を経て水力発電技術、土木技術は長足の進歩を遂げました。戦後復興、高度成長、電化生活を支えてきた水力発電所群は、いずれも見るものを圧倒する力があります。発電所出力のトップ5を紹介しましょう。隔世の感があります。

<揚水式発電所>(注1)

1.奥多々良木(兵庫県朝木市:円山川水系) 最大出力193万2000kW。

 最終運転開始年:関西電力 1998年 1~6号機全運開

2.奥清津・第2(新潟県湯沢町:信濃川水系) 最大出力160万kW。

 最終運転開始年:電源開発 1982年 1~4号機全運開

3.奥美濃(岐阜県本巣市:木曽川水系) 最大出力150万kW。

 最終運転開始年:最終運転開始年:中部電力 1991年 1~6号機全運開

4.新高瀬川(長野県大町市:信濃川水系) 最大出力128万kW。

 最終運転開始年:東京電力 1981年 1~4号機全運開

5.大河内(兵庫県神河町:市川水系) 最大出力128万kW

 最終運転開始年:関西電力 1995年 1~4号機全運開

(注1)揚水発電所とは、発電所の上と下に調整池と呼ばれる大きな池を造り、電力需要の多い昼間は上の調整池から下の調整池に水を落として発電し、発電に使った水は下部の調整池に貯めておきます。夜間は余剰電力を使って下の池に溜まった水を上の池に汲み上げます。電気は蓄えることが難しいエネルギーですので、昼は水の位置エネルギーを使って電気を起こし、夜は電気を使って水の位置エネルギーを蓄える仕組みになっており、広い意味での「蓄電施設」とも言えますね。

詳しくは「電気事業連合会」のホームページに詳しく掲載されていますので、ご参照ください。 ☞http://www.fepc.or.jp/enterprise/hatsuden/water/yousuishiki/

<揚水式を除く発電所>

1.奥只見(福島県桧枝岐村:阿賀野川水系) 最大出力56万kW。

 最終運転開始年(注2):電源開発 2003年 1~4号機全運開(4号機増設)

2.田子倉(福島県只見町:阿賀野川水系) 最大出力40万kW。

 最終運転開始年:電源開発 1961年 1~4号機全運開

3.佐久間(静岡県浜松市:天竜川水系) 最大出力30万kW。

 最終運転開始年:電源開発 1956年 1~4号機全運開

4.黒部川・第4(富山県黒部市:黒部川水系) 最大出力33万5000kW。

 最終運転開始年:関西電力 1973年 1~4号機全運開

5.有峰第一(富山県富山市:常願寺川水系) 最大出力26万5000kW。

 最終運転開始年:北陸電力 1981年      全運開

(注2)発電所は何台もの発電機を建設し、順番に運転を始めて行きますから全部が運転を開始するまでに10年以上かかることがあります。

文: 藤森禮一郎 Reiichiro Fujimori

エネルギー問題評論家。中央大学法学部卒。電気新聞入社、編集局長、論説主幹、特別編集委員を経て2010年より現職。電力問題のコメンテーターとしてテレビ、雑誌などでも活躍中。主な著書に『電力系統をやさしく科学する』、『知ってナットク原子力』、『データ通信をやさしく科学する』、『身近な電気のクエスション』、『火力発電、温暖化を防ぐカギのカギ』、『電気の未来、スマートグリッド』(いずれも電気新聞刊)など多数。