日本沿岸には黒潮と親潮が流れています。そのお陰で海の中は変化に富み、魚類や生物が豊かなのです。冬季には北海道に流氷が漂着するので「流氷ダイビング」が可能ですし、沖縄では「サンゴ礁ダイビング」ができます。こんなことができる国は日本だけです。ここでは、個性豊かな日本の海に生息する魚を紹介していきます。
大方洋二(水中写真家)

写真・文 : 大方洋二 Yoji Okata

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とても派手で目立ちますが、外敵もちょっと警戒

同種にもかかわらず、幼魚と成魚の体色や模様が異なる魚は少なくありません。成長と共に変化するのです。主にベラ類、キンチャクダイ類、スズメダイ類がそうです。見た目が違うため、昔は別種にされたものもいました。「変身」する魚の代表は、ベラ科のツユベラです。昔から観賞魚として人気があり、水槽で飼育されていました。丈夫で飼いやすかったために成長過程の変化が周知され、別種にはされませんでした。

ツユベラのメス。転石帯から続く砂地も行動域にしている(奄美)

ツユベラは約30センチになり、三浦半島以南の太平洋に分布していますが、本州で見られるのは幼魚で、成魚は奄美大島以南のサンゴ礁域です。幼魚の体色は赤で、黒い縁取りがある白い斑紋が数個あります。とても派手で目立ちますが、いかにも毒がありそうな色合いなので、外敵もちょっと警戒するようです。

約3センチの幼魚。派手でよく目立つ(沖縄)

幼魚はサンゴ礁域にもいます。成長に伴い体色と模様が変化する過程は、白い斑紋が小さくなると共に体の後ろから青が広がりますが、個体によっては、白い斑紋が小さくなると共に全体が赤くなり、後ろの青が遅れるものもいます。写真がこれに当たります。成魚と同じ体色になるのは約10センチからです。また、サンゴ礁域で産卵・ふ化した仔魚の一部は黒潮によって本州沿岸にたどり着きますが、水温の低下により越冬できません。

約6センチの幼魚。全体が赤くなるタイプ(沖縄)

ツユベラが好むエサは甲殻類、ウニ類、貝類などです。そのため、それらがいそうなガレ場や転石帯を行動域にしています。石などをくわえてどかし、潜んでいる獲物を探す姿がよく見られます。以前、ツユベラがウニをくわえたのを見かけ、すぐさま追跡したのです。トゲが邪魔になるはずなので、どういう食べ方をするのか確かめたかったのです。しかし追いつくことはできませんでした。

死サンゴのかけらをどかしてエサを探す(沖縄)

ベラ類の多くは、1匹のオスが複数のメスを支配するハレムを形成します。万一オスが死んだ場合、一番強いメスがオスに性転換します。ツユベラも例外ではありません。ツユベラのオスはメスよりやや大きく、体側にクリーム色の帯があります。オスは年中メスたちに「自分は健在」とアピールする必要があります。繁殖期は初夏から秋ですが、行動範囲が広いこともあって産卵行動はあまり観察されていません。身近な魚であっても未知な部分が多いのが実情なのです。

アピールするオス。尾ビレの縁がオレンジ色になるのは珍しい(沖縄)

写真・文: 大方洋二 Yoji Okata

水中写真家。魚類の暮らしぶりを撮影するため、南西諸島や世界の海を巡っている。主な著書に「Marine Blue」(山海堂)、「クマノミとサンゴの海の魚たち」(岩崎書店)、「奄美 生命の鼓動」(講談社)、「アマミホシゾラフグ~海のミステリーサークルのなぞ~」(ほるぷ出版)など多数。東京在住。