年内立春の年と新年立春の年の狭間には、立春のない空穂年が生まれます。

年内立春と新年立春の間の年。

旧暦の一年は、立春の前後に始まります。立春の日は、新暦の二月上旬にありますから、旧暦の正月は新暦での正月行事が全て終わって一息ついた頃にやって来ます。旧暦の年が改まる前に立春がやって来ることを年内立春といい、新年を迎えてから立春が訪れることを新年立春といいます。そして、年内立春の年と新年立春の年の間には、一年のうちに立春が一度も含まれない年が現れます。このように立春の来ない年を空穂年といいます。

旧暦の一年の日数と空穂年。

旧暦の一年は、閏年と平年とでは、日数が大きく異なります。一年の日数は閏年なら383〜385日、平年ならば353〜355日です。一年のうちに一度も立春を含まない空穂年という年は、必ずこの中の日数の少ない方の年、平年に表れます。立春と立春の間の日数はほぼ365日で一定ですから、その日数より短い旧暦の平年の中には、立春と立春の間にはまり込むような形で、立春を含まない空穂年となるものがあるのです。

「立春を含まない年」とわざわざ書くと、空穂年が珍しいもののように思えますが、実はほぼ三年に一度は空穂年が現れます。空穂年のように立春を一度も含まない年がある一方、一年の日数が立春と立春の間隔よりずっと長くなる閏年は、年の始めと終わりに二つの立春を含む年になります。つまり、新年立春の年でありながら年内立春の年でもある、という年になるのです。立春の来ない年があるかと思えば二度来てしまう年もある、旧暦の一年と立春との関係はなかなか複雑です。

空穂年という名前。

空穂とは、靫とも書き、矢を入れて腰に付けた道具です。矢が雨に濡れるのを防ぐ中空の籠だそうです。空穂年は、年の始めにも終わりにも、区切りとなる立春という節目のない年ですから、節目のない年を中空の空穂に擬えて、空穂年と呼ぶようになったようです。節目のない年と中空の空穂を結び付けるとは、なかなか洒落たネーミングです。


新年は空穂年。

まもなく旧暦でも年が改まります。次の旧暦の新年の始まりは新暦の日付では2月8日。立春を4日過ぎてからの年明けです。その新しい一年の日数は355日で、2017年1月27日には、次の立春まで8日を残して一年が終わってしまい、一度も立春の来ない空穂年となります。

旧暦のある暮らし 【如月・弥生】

【二月・如月】

■恵方巻き

恵方巻きとは、節分の日の夕方に恵方を向いて願い事を思い浮かべながら、無言で太巻きを丸かじりする行事です。恵方は、その年の福を司る歳徳神の在る方角で、今年は丙の方角(南南東)です。恵方巻きは、元々は関西(大阪)で行われていたものですが、近頃は関西以外でも行われるようになりました。今年の節分にはきっと大勢の人が、恵方に向かって太巻きを丸かじりすることでしょう。

■初午(はつうま)

初午は二月最初の午の日(今年は2月6日)に、全国の稲荷神社で行われる祭礼のことです。京都の伏見稲荷大社の祭神が降臨した日が初午の日であったことから、この日がお稲荷様の祭礼の日となりました。お稲荷様は五穀豊穣、大漁、商売繁盛といった多くの福をもたらす神様ですから、初午の日にはその福を授かりたいと願う大勢の参詣者で稲荷神社は賑わいます。

■花の兄

二月の異称の一つに「梅見月」があります。読んで字の如く、梅の花を眺める月という意味です。梅は花の少ない早春に百花に先駆けて咲くことから「花の兄」と呼ばれる早起きの花です。いち早く春の訪れを知らせることから「春告草」ともいいます。梅は7世紀に中国から渡来した外来の植物ですが、今ではすっかり日本の早春を代表する花となっています。

【三月・弥生】

潮干狩り

まだ旧暦が使われている時代、海に面した地域では、桃の節供の日には浜に出て潮干狩りや浜遊びをするという風習がありました。これは、節供が季節の節目に身に付いた穢れを祓う禊の行事だったことの名残だと考えられます。旧暦であれば、桃の節供の三月三日は大潮の時期に当たっていて、潮干狩りには好適な時期。水に浸かって禊をするにはまだ寒く辛い季節ですが、潮干狩りなら冷たい水も我慢できそうです。

虫出しの雷

二十四節気の啓蟄(3月6日)の頃になると、冬の間は鳴りを潜めていた雷が再び活動を始め、その轟きが耳に達するようになります。啓蟄の頃に現れるこうした雷を「虫出しの雷」といいます。啓蟄は冬の間、地中にかくれていた虫たちが姿を現すという意味の言葉。虫出しの雷はさしずめ、虫たちの目覚めをうながす自然の目覚まし時計なのでしょう。

ぼた餅
日が伸びて、陽気も良くなる頃に春の彼岸がやって来ます。春の彼岸といえば、思い出されるのがぼた餅。ぼた餅はもち米やうるち米を炊き、軽く搗いて小さく丸め、災難を避ける力があるという赤い小豆の餡で包んだ単純素朴な、しかし懐かしい食べ物です。今年もお彼岸にはぼた餅をほおばり、一年の無事を祈りたいものです。