霧島山系から阿蘇山へと続く壮大な山地と、青く美しい日向灘を持つ宮崎県は、一年を通じて新鮮な魚と豊富な野菜や果物が獲れるところ。その宮崎県の西都市に伝わる伝統的な家庭料理「冷や汁」の保存会を訪ねました。

気候風土に合った身近な食材でごはんを作る!

西都市に広がる田園風景。

ぎらぎらと太陽が照りつける夏、うだるような暑さで食欲もなくなる時に、宮崎県の方々は「冷や汁」を食べます。魚やごまなどの入った焼き味噌を水でのばし、野菜や薬味を加えた冷たい味噌汁を、麦飯にかけ、ざぶざぶといただくこの「汁かけご飯」は、鎌倉時代の僧侶が考案したものだそう。保存性のよい味噌を使うため、戦国時代の武士の間では陣中食として、また江戸時代以降は、忙しい農家の栄養補給食として全国に広まりましたが、近代になって米や魚、野菜が豊富になり、次第にすたれていったといいます。

そんな「冷や汁」が、宮崎県の主に宮崎平野では家庭料理として連綿と受け継がれていることを知り、「西都冷や汁保存会」の森貞子さんを訪ねました。そこで知ったのは「身近な食材を使った伝統食こそがいちばん身体によい」という考え方。必ず麦飯を使うのも、そんなこだわりの表れです。さらに「忙しい農家の主婦が、急いでごはんを用意する知恵」も学べました。

麦飯に冷や汁を豪快にかけて、何杯も食べられます。たっぷり加えた大葉やたまねぎの香りが食欲をそそります。

宮崎県人のソウルフード「冷や汁」は焼き味噌が決め手

「西都市冷や汁保存会」は、今から30年ほど前に、地域食文化の研究を目的に結成された婦人会。当時、近隣を調査するうち「今伝えなければすたれてしまう」と危機意識を持ったのが冷や汁だったそうです。

「宮崎では『ひやしゅる』と発音するの。私たちはだしにいりこを使いますが、海に近い地域ではアジやタイを使うなど、県内にはさまざまな冷や汁がありますよ」と会長の森貞子さん。「西都市流」のレシピを公開したり、いちばん手間がかかる「焼き味噌」を販売するなどの地道な活動を今なお続けています。

「風味豊かな焼き味噌さえ作っておけば、水で溶いてあとは家にある豆腐や野菜を加えるだけ。冷や汁は、実は作り方が簡単でおいしい、栄養もあると、ぜひ若い人たちに知ってほしいわ」とその普及に、いまも意欲満々なのでした。

材料は焼き味噌用の麦味噌、いりこ、ごま、落花生のほか、木綿豆腐、きゅうり、たまねぎ、大葉と盛りだくさん。
1.ごまといりこと落花生は気長~にすります
2.味噌を加えて「これくらいでいいかな?」。
3.味噌は焼く前に、中の空気をしっかり抜いて。
4.焼き味噌は固いから、最初はお湯で溶かします。
5.次に木綿豆腐を加えてこれも適度にすってください。
6.豆腐の後に水を加えて味加減を見ましょう。
7.輪切りきゅうりとみじん切りのたまねぎを。
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8.仕上げの大葉は手のひらでもむと香りが増します。

<作り置きすると便利な焼き味噌>

「焼き味噌」とは、すったいりこやごま、ピーナッツなどに、生味噌を加えてさらによくすったものを、焦げ目がつくまで焼いたもの。これを冷凍保存しておくと、あっというまに冷や汁が完成します。地元、西都市の赤十字奉仕団では、この焼き味噌を災害時の非常食として冷凍保存しているそうです。

型にはめるなどして均一の厚さにするとよいでしょう。
型にはめるなどして均一の厚さにするとよいでしょう。
こんがりと焼き色がつくのが目安で。
「西都冷や汁保存会」のメンバーの皆様と。