時間や約束に縛られることもなく、
自由な旅をするかのように、気が向いた場所に足を運び、
雨の日には雨の京都を、曇りの日には曇りの京都を、
また晴れた日には晴れの京都を、写し撮ってみたい。
写真 : 谷口哲 Akira Taniguchi
太陽が山の奥のほうに沈んでいく
街道沿いの提灯に火が灯りはじめるころ
観光客は姿を消し、いつもの日常が姿を見せる
障子越しの明かりが暖かい
まだ空に薄っすら明るさが残こるほんの少しの時間は
心地よい寂しさを感じることができる
愛宕街道 あたごかいどう
洛西・嵯峨野の最奥にそびえる京都市の最高峰・愛宕山。その山頂に、全国約900社を数える愛宕神社の総本宮が鎮座している。
古くより神仏習合の山岳修行霊場として名高く、参拝するには現在も清滝などの登山口から約2時間かけて徒歩で詣でる以外に方法はない。また、参拝すると千日分の火伏・防火のご利益があるといわれる「千日詣(せんにちまいり/正式には千日通夜祭)」が毎年7月末に行われている。火は生活に恵みを与えてくれる反面、全てを焼き尽くしてしまう恐ろしい存在として、「火迺要慎(ひのようじん)」の教えを今に伝えているのだ。
この愛宕神社へ続く道が「愛宕街道」である。
嵐山から野仏の並ぶ三叉路を経て、化野念仏寺方面へ向かう。愛宕山の麓の一之鳥居に近い嵯峨鳥居本周辺は、上地区に茅葺の農家風の建物が建ち、下地区には瓦葺で京格子の町家風が並ぶ。農村的景観と都市的景観が共存し、奥嵯峨の美しい自然と一体となって、独特の佇まいを見せている。
桜、紅葉、雪景色など、四季折々いつ訪れても風情はあるが、秋口に入り、ほんのひと時人出が途絶えたころの奥嵯峨は、本来の姿を見せて物悲しくも美しい。(文/中島)
愛宕街道/嵯峨鳥居本
所在地:京都市右京区嵯峨鳥居本仙翁町
京都バス嵐山・清滝行き「鳥居本」下車、徒歩約5分
清凉寺までは、渡月橋から徒歩約20分