時を超え、職人のセンスが交差する『江戸千代紙』。
版元が受け継ぐ江戸柄は、粋なお洒落のお手本に。

一期一会の楽しみ

この機会を逃したら、二度と出合えないかもしれない。全く同じものが一枚としてない手摺りの千代紙には、一期一会の楽しみがあります。

江戸千代紙とは、木製の版を使い、手摺りで柄を施した和紙のこと。浮世絵の発達とともに、江戸時代には庶民にも広がり、女の子の人形遊びの他、装飾や包装などさまざまな用途に使われました。元治元(1864)年に創業したいせ辰は、そんな江戸千代紙の専門店であり、版元でもあります。

外国人旅行客も多く訪れる店内。

いせ辰の一番の財産といえるのが、代々受け継がれる千代紙の版木(※)です。創業以来、作りためられてきたオリジナルの絵柄は1000種類にものぼります。歌舞伎柄に干支、四季折々の模様、七福神などの縁起ものの柄から庶民の生活の様子を描いたものまで、描かれるモチーフはさまざま。竹久夢二などの、大正の人気作家が描き下ろした柄も人気です。

※版木=木版印刷や木版画制作に用いられる型。板木(はんぎ)とも呼ばれ、印刷のために文字や絵画などを反対向きに刻する。

竹久夢二が描き下ろした柄

工房では、摺り師が大切にしている版木を用いて一枚ずつ丁寧に柄を刷り上げていきます。使う柄は今も昔も同じですが、彩色は時代の流行にあわせて変えてきました。これは、手摺りの醍醐味でもあります。

店頭では機械刷りの千代紙も扱っていますが、根強いファンが多いのは、やはり江戸文化をそのまま伝える手摺りの千代紙とのこと。柄のほうは昔のまま忠実に、色彩は時代に寄り添って変えていく。こうした工夫があるからこそ、伝統が生きたまま受け継がれてきたのでしょう。

全て手摺り江戸千代紙。上から「夜の梅・紺」「縞」「花色式」

海外からの観光客もたくさん訪れます。「特に、日本の美術の人気が高いヨーロッパからの旅行者が増えました」と話すのは、店頭に立つ森本さん。先代の時代には、ヨーロッパへの輸出をしていたこともあり、当時は包装用のナプキンとして使われていたそうです。今はネットで購入することもできますが、現物を見て購入したいと、わざわざお店を訪れてきます。

ビビッドな色調と、洒落がきいた粋な図柄が溢れる店内は、まるで宝探しのよう。江戸時代から続く粋な図柄と色使いのセンスに引き込まれ、時間を忘れてついつい長居してしまいそうです。

店頭に立つ渡邊さん(左)と森本さん(右)

菊寿堂 いせ辰 谷中本店

東京都台東区谷中2-18-9
☎03-3823-1453
http://www.isetatsu.com/

営業時間:10時~18時
定休日:無し
最寄駅:東京メトロ千代田線「千駄木駅」