「鼻緒が擦れて歩きづらい」。そんな下駄のイメージを覆す、オーダーメイドの一足を。

粋な履物

江戸の人々は何よりも足下のおしゃれに気を使ったといいます。料亭や旅館では、客の履物で上客になるかどうかを見極めたというほどです。着るものにお金をかけても、下駄がくたびれていては「野暮」といわれてしまいました。丸屋履物店が店を構える北品川は、かつて東海道第一の宿場として栄えた地域です。江戸から一番近い宿場街は江戸近隣有数の歓楽街でもあり、人々が「粋」を競い合っていました。そんな街の中心で、慶応元(1865)年に開業した丸屋履物店は、江戸の履物文化の伝統を今に伝える貴重な存在です。

左上/大下方、中右/胡麻竹芳町、左下/相小町

丸屋の下駄は基本的にオーダーメイドです。用途や好みにあった下駄台に、好きな鼻緒をすげて自分だけの一足を作ってもらいます。

「代々大切にしているポリシーはただ一つ。台も鼻緒も素材にこだわって、腕のいい職人さんに作ってもらうことです。私の仕事は、いいもの同士を合わせて、きちっと仕上げること」と、五代目店主の榎本準一さんは言います。鼻緒をすげ続けて50年の、大ベテランです。

鼻緒は全て丸屋さんのオリジナル。

店内でひときわ目を引くのは、全国から集められた布で作られた色とりどりの鼻緒です。その数は1,000種類以上。鹿皮に漆で模様をつけた甲州印伝や、幕府への献上品だった博多織の帯を仕立て直したもの、大島袖の古布を裂いて織り直したものなど珍しい素材も多く、眺めているだけでも飽きません。

下駄台を整えて鼻緒をすげるための道具。赤樫でできた作業台は、代々受け継がれた200年前のもの。

粋な履きこなしには、歩き方も大切です。

「かかとは思いきり台の外にだして、足の指は鼻緒に引っ掛ける程度。重心を足の甲に持ってくることを意識すると、自然に前に倒れます」

歯が地面に当たって大きな音が鳴るのは、足に合っていないか、履き方が間違っているサインだそう。

「下駄の音を表現してカランコロンというでしょ。実は正しく履くと音は鳴らないんですよ」

既製品が主流となった今、足に合わせて鼻緒をすげてくれる専門店は貴重な存在です。

「わざわざ飛行機や新幹線でいらっしゃるんです」と笑う榎本さんの語り口は、履物への揺るぎない愛情に溢れていました。

5代目店主の榎本準一さん

丸屋履物店

東京都品川区北品川2-3-7
☎03-3471-3964
https://www.getaya.org/
営業時間:9時~19時
定休日:日曜 最寄駅:京浜急行「新馬場駅」