温泉宿の軒先などでときどき見かける『日本秘湯を守る会』の提灯、これはその宿が社団法人・日本秘湯を守る会の会員であることを示すものです。発足時1975年の会員宿は33軒、現在は全国185軒の宿が収録されています。かつては山登りの末にようやく辿り着けたり、電気がなかったり……という正真正銘の秘湯もありましたが、時代が変わり、快適すぎてビックリ! という宿も多くなっています。極上の濁り湯はゆたかな大地のおもてなし。老若男女が気兼ねなく、おおらかに楽しめる「秘湯」をご紹介します。

法師温泉 長寿館

旧国鉄の「フルムーン」CMで一躍有名になった法師乃湯。桁行12m、梁間10mの高い天井をもつ杉皮葺きの建物には、ハイカラな洋風のアーチ型窓が配されている。

かつての三国街道沿いにある鄙びた一軒宿。

上越国境に位置する三国峠の南麓、国道17号から分岐する県道261号(かつての三国街道)を登り詰めたところに法師温泉 長寿館はある。

まるで江戸時代の旅籠のような佇まいをもつ本館は、明治8年(1875年)に建てられたもので、与謝野晶子をはじめ多くの文人墨客が愛した部屋がそのままの姿で残されている。築150年を超える木造建築は「国登録有形文化財」にも指定。また、往年の大スター、高峰三枝子と上原謙がモデルになり、旧国鉄のフルムーンのポスターが撮影されたことで一躍有名になった法師乃湯の建物も明治28年(1895年)の築で、アーチ型にデザインされた窓などが当時のモダンな雰囲気を今に伝えている。

国道17号との分岐からかつての三国街道を5㎞ほど進んだところにある一軒宿。玄関には「御入浴客御定宿」の古めかしい看板が掲げられている。

湯船の底の玉石の間から極上の湯が湧く。

人気の法師乃湯は、温泉が自然湧出する川原に建てられた湯殿で、湯船の底に敷き詰められた玉石の間からは泉温43℃ほどの源泉がぽこぽこと湧き上がってくる。まさに自然の恵みを生かした極上の湯である。脱衣場は男女別となっているが、田の字型に区切られた大浴場は男女混浴で、昔ながらの湯治場の風情をたっぷりと味わうことができる。

このほか、時間によって男女入れ替え制となっている玉城乃湯(内湯と露天風呂)、女性専用の長寿乃湯なども用意されているので、混浴が苦手という人にもゆったりとした湯浴みを楽しめるはずだ。

上州赤城牛や榛名豚を始めとする地場の食材をたっぷり使った料理も魅力。
左/館内には昔使われていたレジスターなど、レトロな品々も展示されている。
右/入口の三和土(たたき)をのぼったところにある吹き抜けの玄関。
法師川を挟んで右に本館、左に薫山荘と別館が並ぶ。両側をつなぐ渡り廊下も木造。

法師温泉 長寿館

住所:群馬県利根郡みなかみ町永井650
電話:0278-66-0005
http://www.houshi-onsen.jp/

アクセス
列車:上越新幹線・上毛高原駅から路線バスで約1時間
車:関越自動車道・月夜野ICから約23㎞/45分

文: 佐々木 節 Takashi Sasaki

編集事務所スタジオF代表。『絶景ドライブ(学研プラス)』、『大人のバイク旅(八重洲出版)』を始めとする旅ムック・シリーズを手がけてきた。おもな著書に『日本の街道を旅する(学研)』 『2時間でわかる旅のモンゴル学(立風書房)』などがある。

写真: 平島 格 Kaku Hirashima

日本大学芸術学部写真学科卒業後、雑誌制作会社を経てフリーランスのフォトグラファーとなる。二輪専門誌/自動車専門誌などを中心に各種媒体で活動中しており、日本各地を巡りながら絶景、名湯・秘湯、その土地に根ざした食文化を精力的に撮り続けている。