時間や約束に縛られることもなく、
自由な旅をするかのように、気が向いた場所に足を運び、
雨の日には雨の京都を、曇りの日には曇りの京都を、
また晴れた日には晴れの京都を、写し撮ってみたい。
写真 : 谷口哲 Akira Taniguchi / 文 : 中島有里子 Yuriko Nakajima
目を覚ますかのように日の出と共に池霧が湧き立つ
東山方向から出た朝の斜めの光が、薄暗かった広沢の池に到達すると
霧が出ていたんだと教えてくれる。
霧が池の上を舞う様子はとても心地よく、感情を忘れてついつい見入ってしまう。
静かだった水面(みなも)を緑の香りを含んだ風が少し動いた
少し緑のにおいを含んだ5月のさわやかな風が、左から右へ
水面を優しくなでるように流れていく。
寒くもないし暑くもない。
やがて蒸し暑くなる盆地の京都、
いつまでもこの風に吹かれていたい気分になる。
広沢池 ひろさわのいけ
京都市右京区嵯峨広沢町にある周囲1.3kmほどの池。別名・遍照寺池(へんしょうじのいけ)と呼ばれ、「日本三沢」の1つに数えられている。
平安時代中期の989(永祚元)年、寛朝僧正が朝原山の麓に遍照寺を建立する際、本堂の南に庭池として造営したと伝えられる。かつては遍照寺の広大な境内の一部だったが寛朝の没後その寺勢が衰退するとともに徐々に荒廃してしまうが、明治時代になって地元の人々の協力により修復が進み、現在の形に蘇った。
池一帯は景観保護地区に指定されており、のどかな風景のなか、鷺や鴨などの水鳥が羽を休めている。池に突き出るように観音島が、その突端には弁天堂があり、池のほとりからは小倉山や愛宕山などを見渡すことができる。
春の桜、秋の紅葉も見事だが、西にある大覚寺の大沢池と並んで平安期の観月の名所として名高く、多くの貴族が歌を読んだ。村上天皇の皇子・具平(ともひら)親王が女房・大顔とお忍びでこの池を訪れた際、月見の最中に彼女が消え入るように亡くなってしまった。その悲話をモデルに、源氏物語のヒロイン・夕顔が創作されたともいわれている。
———やどしもつ月の光の大沢は いかにいつとも広沢の池 [西行法師]
広沢池
所在地:京都市右京区嵯峨広沢町
JR嵯峨野線「嵯峨嵐山」から徒歩約15分
京都市バス「広沢池・佛大広沢校前」すぐ