日本では、古くから身近にある自然素材を利用して、日常生活の中で使われる多様な工芸品を生み出してきました。それらは、先人たちの巧みな技と知恵を使い手作りされたもので、その地域や気候風土に合った暮らしに密着する、欠くことのできないものでした。しかし、現代社会における生活様式の合理化や、安価な化学素材の利用が進み、多くが使われなくなり衰退してきています。 そこで国は「伝統的工芸品産業の振興に関する法律(伝産法)」を定め、主として日常生活で使われるもの、製造過程の主要部分が手作り、伝統的技術または技法によって製造、原材料は伝統的に使用されてきたもの、一定の地域で産業として成立している、といった条件を満たしたものを「伝統的工芸品」として指定し、支援しています。
各地で育まれ、大切に受け継がれてきた工芸品の数々、ここでは地域・県ごとにその特徴をご紹介します。
第1回目は北海道・東北です。
北海道・東北地方の特徴
先住民族アイヌの精緻な手工芸、みちのくの郷土色豊かで素朴な味わい。
北海道では、古くからアイヌの人たちの間に工芸技術が伝承されていることは知られていましたが、確かな文献がないために長らく対象外になり、国指定品目がありませんでした。平取町二風谷の2件が指定を受けたのは2013年のことです。東北の鳴子漆器や会津塗、南部鉄器などは、中央からもたらされた技術に独自の工夫を重ねて評価を高め、今や郷土の特産品にまでなっています。その地に始まり固有の工芸品として長く継承されているものに、置賜紬や宮城伝統こけし、森林資源に恵まれた秋田の木工芸など。また、天童将棋駒はユニークな工芸品として郷土の宣伝に大いに役立っています。
北海道
二風谷イタ(にぶたにいた)/二風谷アットゥシ(にぶたにあっとぅし)
二風谷イタは日高地方沙流川(さるがわ)流域で使われていた木製の盆で、渦巻きやウロコ状の形をしたアイヌ文様が彫られているのが特徴。ニレ科の木、オヒョウなどの樹皮から取り出した繊維による織物が二風谷アットゥシ。水に強く、通気性に優れ、強靱さと独特な風合いがあり、主に衣服に利用されている。ともに2013年に「伝統工芸品」に指定された。
青森
津軽塗(つがるぬり)
弘前藩の産業振興政策によって始まり、江戸時代中期に成立したとされる津軽塗には、唐塗(からぬり)、七々子塗(ななこぬり)、錦塗(にしきぬり)、紋紗塗(もんしゃぬり)という代表的な4種類の塗り技法がある。すべての技法で漆を数十回塗り重ね、研磨仕上げを施している。このため優美な外観をもちながら、丈夫で実用性に富んだものとなっている。食器類はもちろん、盆や座卓などが作られている。
岩手
南部鉄器(なんぶてっき)/岩谷堂簞笥(いわやどうたんす)/秀衡塗 (ひでひらぬり)/浄法寺塗(じょうぼうじぬり)
南部鉄器は17世紀中頃に南部藩主が釜師を招いて始まったとされ、丈夫で長持ち、そしてあられ文様が温もりを感じさせてくれる、最も知られる伝統的工芸品の一つ。岩谷堂簞笥はケヤキやキリ等の木を使った漆塗りのたんすに、優美な金具が取り付けられている。秀衡塗は、平安時代末期に奥州藤原氏のもとで始まったもので、金箔の輝きと漆の艶が見せる華やかさある一品。一方、浄法寺塗はほとんどが無地の単色で、光沢を抑えた味わいのあるもの。暮らしの中で使われる食器として利用されている。
宮城
鳴子漆器(なるこしっき)/雄勝硯(おがつすずり)/宮城伝統こけし(みやぎでんとうこけし)/仙台箪笥(せんだいたんす)
江戸時代初期に鳴子町地域を支配していた領主が、職人を京都に修業に出し振興を図ったことから発展したとされるのが鳴子漆器。雄勝硯は室町時代から優れた硯として知られており、現在も昔ながらの手作りの製法により作られている。宮城県内には、「鳴子(なるこ)こけし」「作並(さくなみ)こけし」「遠刈田(とおがつた)こけし」「弥治郎(やじろう)こけし」「肘折(ひじおり)こけし」の5つの伝統こけしがあり、形・描彩にそれぞれ特徴がある。江戸時代末期に、仙台藩の地場産業として発展した仙台箪笥は、木目が浮かび上がる木地呂(きじろ)塗りに、豪華な飾り金具が施されている。
秋田
川連漆器(かわつらしっき)/樺細工(かばざいく)/大館曲げわっぱ(おおだてまげわっぱ)/秋田杉桶樽(あきたすぎおけたる)
川連漆器の始まりは鎌倉時代とされるが、本格的に椀などの漆器が制作され始めたのは江戸時代中期以降。堅地仕上げしてから漆を塗っているので丈夫な仕上がりを見せる。ヤマザクラの木の皮を削り外装材に用いる樺細工は、ほかに見ることのできない貴重なもの。大館曲げわっぱと秋田杉桶樽は、美しい木目と香り、そして伸び縮みが少ないという秋田杉の特性を利用した、生活に潤いをもたらす製品として受け継がれている。
山形
置賜紬(おいたまつむぎ)/山形鋳物(やまがたいもの)/山形仏壇(やまがたぶつだん)/天童将棋駒(てんどうしょうぎこま)/羽越しな布(うえつしなふ)※新潟県の羽越しな布と重複
置賜紬はこの地で生産されている草木染紬や紅花紬など6種の総称。江戸時代初めに、領主の上杉景勝が奨励したことで盛んとなった。茶道において使われる湯釜や花瓶として欠かせない山形鋳物は、平安時代中頃の始まり。山形仏壇は、江戸時代中期に彫刻技術を学んだ職人が、欄間、仏具等の彫刻を仕事とするようになり、これに漆塗師、蒔絵師、金工飾り職人などが加わり、仏壇を製作するようになった。天童将棋駒は、江戸時代後期にこの地方を治めていた織田藩下級武士の手内職として始まったもの。羽越しな布は、シナノキなど山野に自生する樹皮で織られた古代布。
福島
大堀相馬焼(おおぼりそうまやき)/会津本郷焼(あいづほんごうやき)/会津塗(あいづぬり)/奥会津編み組細工(おくあいづあみくみざいく)/奥会津昭和からむし織(おくあいづしょうわからむしおり)
大堀相馬焼は、表面が青磁釉という青みあるガラス質の陶器を主に作っており、「青ひび」が特徴。江戸時代の初期に、会津藩の藩主が焼き物づくりを奨励し、会津本郷焼は会津藩の御用窯として栄えていた。室町時代に始まったとされる会津塗は、多彩な塗りの技法による椀や重箱、盆が作られている。奥会津地方の山間部で採れる、ヤマブドウやマタタビなどの植物を使った編み細工で、手さげ籠や肩かけ籠、菓子器などが作られ、素朴な風合いを持っている。奥会津昭和からむし織は、昭和村において生産されているイラクサ科の多年草であるからむしを使用した織物で、吸湿・速乾性に優れ衣料や小物、装飾品などに利用されている。