日本では、古くから身近にある自然素材を利用して、日常生活の中で使われる多様な工芸品を生み出してきました。それらは、先人たちの巧みな技と知恵を使い手作りされたもので、その地域や気候風土に合った暮らしに密着する、欠くことのできないものでした。しかし、現代社会における生活様式の合理化や、安価な化学素材の利用が進み、多くが使われなくなり衰退してきています。
そこで国は「伝統的工芸品産業の振興に関する法律(伝産法)」を定め、主として日常生活で使われるもの、製造過程の主要部分が手作り、伝統的技術または技法によって製造、原材料は伝統的に使用されてきたもの、一定の地域で産業として成立している、といった条件を満たしたものを「伝統的工芸品」として指定し、支援しています。

中部地方の特徴。生活に必要な素朴な実用品と優雅な装飾。

日本海側・北陸地方など雪が多い地方では、農閑期の作業から誕生した実用品がほとんどで、まさに生活していくうえで必要となったものばかりです。そして、江戸時代以降、生活と文化、さらに技術の成熟とともに、華麗、優雅といった装飾が施されていきます。

新潟

塩沢紬(しおざわつむぎ)/本塩沢(ほんしおざわ)/小千谷縮(おぢやちぢみ)/小千谷紬(おぢやつむぎ)/十日町絣(とおかまちがすり)/十日町明石ちぢみ(とおかまちあかしちぢみ)/羽越しな布(うえつしなふ)※山形県の羽越しな布と重複/村上木彫堆朱(むらかみきぼりついしゅ)/新潟漆器(にいがたしっき)/加茂桐簞笥(かもきりたんす)/燕鎚起銅器(つばめついきどうき)/越後与板打刃物(えちごよいたうちはもの)/越後三条打刃物(えちごさんじょううちはもの)/新潟・白根仏壇(にいがた・しろねぶつだん)/長岡仏壇(ながおかぶつだん)/三条仏壇(さんじょうぶつだん)

新潟県の織物の多くは古い歴史を持ち、小千谷縮は涼感を出すために独特のしわを施した夏衣で、国の重要無形文化財。小千谷紬は小千谷縮の技法で織られた製品で起源は江戸中期。塩沢紬と本塩沢は古くから伝わる麻織物の技法で製作された絹織物。十日町絣、十日町明石ちぢみは幕末から明治に入り盛んになった絹織物で、前者は民芸調、後者は清涼感を誘う意匠が特徴。金物製造も代表的工芸品で、越後三条打刃物は鎌や鋸、包丁など。燕鎚起銅器は1枚の銅板を鎚で打って立体的に仕上げる鍋や釜など。越後与板打刃物は戦国期の刀剣製造に始まる。ほかにも村上木彫堆や加茂桐簞笥、新潟漆器といった木工品や漆器、仏壇が地場産業として栄え、国指定伝統的工芸品は京都についで多い。

村上木彫堆朱 写真提供:新潟県地場産業振興課 複製・再転載禁止

山梨

甲州水晶貴石細工(こうしゅうすいしょうきせきざいく)/甲州手彫印章(こうしゅうてぼりいんしょう)/甲州印伝(こうしゅういんでん)

甲州水晶貴石細工は甲府市北部の山中に産する水晶を原材料にした飾り物や装身具。研磨技術は江戸末期、京より伝えられた。甲州手彫印章は水晶やツゲ材、水牛材などによる製品で、江戸末期には県下で広く製造された。江戸時代末期に、甲府市地域を中心にして産地が形成された甲州印伝は、財布や巾着等の袋物として親しまれていた。

甲州水晶貴石細工 写真提供:山梨県地域産業振興課 複製・再転載禁止

長野

信州紬(しんしゅうつむぎ)/木曽漆器(きそしっき)/松本家具(まつもとかぐ)/南木曽ろくろ細工(なぎそろくろざいく)/信州打刃物(しんしゅううちはもの)/飯山仏壇(いいやまぶつだん)/内山紙(うちやまがみ)

信州紬は江戸初期、各藩の奨励により盛んになり京へも出荷された。木曽漆器には3通りの塗り技法があり、南木曽ろくろ細工は木目を生かした朴訥な意匠で、始まりは18世紀前半となっている。松本家具の起源は16世紀末、民芸品としての評価も高い。信州打刃物は川中島合戦時の刀剣製造に始まり、今は鎌や包丁など。寺の町飯山に江戸時代初期から根づいた飯山仏壇は、地域内で一貫して生産され、多量の雪でコウゾを晒して白くする「凍皮」等、独特の技術が魅力の内山紙がある。

松本家具 写真提供:長野県ものづくり振興課 複製・再転載禁止

岐阜

美濃焼(みのやき)/飛騨春慶(ひだしゅんけい)/一位一刀彫(いちいいっとうほり)/美濃和紙(みのわし)/岐阜提灯(ぎふぢょうちん)

美濃焼は安土桃山期の茶の湯の流行とともに発展、東濃に日本最大の陶磁器生産地を形成している。飛騨春慶の始まりは江戸初期、透き漆により木肌の美しさを引き出す。一位一刀彫は1本の木から作品を仕上げ、色を付けずに木の特性を十分に活かした彫刻。美濃和紙は紙面に漉きムラがなく障子紙を始め、保存文書用紙等に使われ、岐阜提灯はお盆用や納涼用に広く使用されている。

美濃焼

静岡

駿河竹千筋細工(するがたけせんすじざいく)/駿河雛具(するがひなぐ)/駿河雛人形(するがひなにんぎょう)

駿河竹千筋細工が普及したのは江戸後期、菓子器や虫籠が旅人などに販売されて広まった。駿河雛具は、16世紀に今川氏が現在の静岡県の駿河の大名であった時代にすでに生産されており、木地、漆、蒔絵、金具等の工程を分業化することで、大量の製品を作ることができた。駿河雛人形は幕末の衣装を着せた天神が起源で、のち節句人形として親王雛などが作られた。

駿河竹千筋細工 写真提供:静岡県地域産業課 複製・再転載禁止

愛知

有松・鳴海絞(ありまつ・なるみしぼり)/名古屋友禅(なごやゆうぜん)/名古屋黒紋付染(なごやくろもんつきぞめ)/赤津焼(あかづやき)/瀬戸染付焼(せとそめつけやき)/常滑焼(とこなめやき)/名古屋桐簞笥(なごやきりたんす)/名古屋仏壇(なごやぶつだん)/三河仏壇(みかわぶつだん)/豊橋筆(とよはしふで)/岡崎石工品(おかざきせっこうひん)/尾張七宝(おわりしっぽう)/三州鬼瓦工芸品(さんしゅうおにがわらこうげいひん)/尾張仏具(おわりぶつぐ)

有松・鳴海絞は、江戸初期に技法が伝えられ、その後、藩から販売独占権を与えられ発展した。名古屋友禅は江戸中期、京の職人などから技法を学んだもの。名古屋黒紋付染は藩の旗印や幟に家紋を染めたことに始まる。焼物の盛んなこの地で、常滑焼の起源は平安末といわれ、原料に含まれている鉄分を赤く発色させるのが特徴。赤津焼は江戸初期までに技法が確立され、藩の御用窯として栄えた。瀬戸染付焼は江戸後期に九州の磁器製法を学んで急速に発展、単色濃淡の染付け技法が特徴。名古屋桐箪笥は他産地産より幅が広く加飾、贅沢感を演出。名古屋仏壇、三河仏壇は、江戸初期から中期にかけて発展。尾張七宝は金属素地表面に釉薬を施して図柄をあしらうもので、花瓶や飾り皿が製作される。三州鬼瓦工芸品は、伝統的な鬼面や家紋入り鬼瓦のほか、エクステリア製品など多岐にわたる。

有松・鳴海絞

富山

高岡漆器(たかおかしっき)/井波彫刻(いなみちょうこく)/高岡銅器(たかおかどうき)/越中和紙(えっちゅうわし)/庄川挽物木地(しょうがわひきものきじ)/越中福岡の菅笠(えっちゅうふくおかのすげがさ)

高岡漆器、高岡銅器ともに起源は江戸初期。前者は3通りの技法で盆や箱物。後者は彫金や着色を施して日用品から銅像なども製作し、明治時代にはパリ万国博覧会に出品され世界でも知られるようになった。井波彫刻は荒彫りから仕上げ彫りまで200本以上ののみを使って欄間や獅子頭などを制作する高度な技術。庄川挽物木地は幕末に始まり、木材の年輪を生かした日用品が主。越中福岡の菅笠は、江戸時代に加賀藩が生産を奨励したもので、平成29年に伝統的工芸品に指定された。

高岡銅器 写真提供:富山県経営支援課 複製・再転載禁止

石川

牛首紬(うしくびつむぎ)/加賀友禅(かがゆうぜん)/加賀繍(かがぬい)/九谷焼(くたにやき)/輪島塗(わじまぬり)/山中漆器(やまなかしっき)/金沢漆器(かなざわしっき)/金沢仏壇(かなざわぶつだん)/七尾仏壇(ななおぶつだん)/金沢箔(かなざわはく)

牛首紬の始まりは12世紀半ばで、生産地である白山市白峰地区が、かつて牛首と呼ばれていたことに由来。加賀友禅は江戸中期、京の絵師により始まる。ボカシ技法などで山水や花鳥をあしらった優雅な染織。加賀繍は室町初期に伝えられ、多色の絹糸を繍い上げたあでやかな模様や絵柄が特徴。九谷焼は江戸初期に始まり一度途絶えたのち再興、5彩の上絵付による着画彩色技法が特徴。輪島塗は室町初期に始まり、漆を塗り重ね模様を彫り込む沈金などの加飾加工を経て仕上げる。山中漆器の起源は安土桃山期、上塗りや蒔絵で加飾する。金沢漆器は藩の工芸奨励策により発達、優美な蒔絵が特徴。金沢仏壇は、加賀百万石の財力に支えられた華やかな金箔や蒔絵技術が使われている。金沢箔は維新後に発展、金箔の独占的な産地で、その厚さは1万分の1〜2mm。

九谷焼

福井

越前焼(えちぜんやき)/越前漆器(えちぜんしっき)/若狭塗(わかさぬり)/越前箪笥(えちぜんたんす)/越前打刃物(えちぜんうちはもの)/越前和紙(えちぜんわし)/若狭めのう細工(わかさめのうざいく)

越前焼は平安期の技法を継承した素朴な日用雑器。越前漆器は華麗な蒔絵が特徴の膳や重箱。若狭塗は貝殻をちりばめ漆や金銀箔を施した食卓用品。ケヤキ、キリ等を使い漆塗りと鉄製金具で装飾した重厚な和箪笥。越前打刃物は手仕上げによる鎌や包丁。越前和紙は、奈良時代には写経用紙として重用され、奉書や襖紙に利用される。若狭めのう細工は、めのう原石に彫刻、研磨を施し、仏像、香炉、杯などさまざまな装身具等に仕上げる。

越前漆器 写真提供:福井県地域産業・技術振興課 複製・再転載禁止