あつらえ足袋の専門店として花街の「粋」を支えて150年。花柳界に支持される秘密とは。
文 : 水口まり Mari Minakuchi / 写真 : 菅原孝司 Koji Sugawara
粋な着物の着こなしには、足にきれいに合ったしわのない足袋が欠かせません。「江戸の履倒れ」という言葉があり、いちばん目につく足元にこそこだわって贅沢をするのが、江戸っ子の美意識でした。
丈夫であることが重視され、全体的にふっくらとしたシルエットの京の足袋に比べ、江戸の足袋は細身です。足を入れた時に美しいラインが出るように、少しきつめに履くのが特徴です。
向島めうがやは、古くから料亭の女将や芸妓さんを得意先にもつ、あつらえ足袋の老舗です。下町の情緒が残る向島に店を構え、花街の女性の足元を細く美しく見せる江戸足袋を作り続けています。
創業は慶応3(1867)年。元々は浅草で営業していましたが、95年ほど前に向島に店を移し、現在は5代目店主の石井芳和さんが、伝統と技術を引き継いでいます。この店で扱う足袋の7割以上は、一人ひとりの足型をとって作るオーダーメイドの足袋です。
足袋作りにはおよそ20の工程があります。巷では既製品が多く出回るようになり、例えば裁断の作業は金型を使って機械でプレスするのが一般的でありますが、めうがやでは、今でも手作業で行われています。
作業は全行程を奥様と息子さんを合わせて3人で行なっています。一日に仕上げられるのはおよそ10足。オーダーメイドの場合は、履き心地を確かめるための3カ月の試し履き期間を設けていることもあり、完成までには長い時間がかかります。
本格的な足袋は初めてだという人や、すぐに必要だという場合のために、既製品も揃えています。既製品とはいえ、フィット感は抜群。白キャラコはサイズにより形が4種類あり、一足単位で購入することができます。
足袋づくりの工程のうち一番神経を使うのは、採寸の作業だと言います。何代にも渡って、受け継がれてきた文規(もんぎ)という特殊な定規とメジャーを使い、丁寧に両足のサイズを測っていきます。足袋を舞台で履くのか、普段用なのかなど、そして年齢や採寸時間も十分に考慮することは、完成度の高い足袋を作るうえで最も重要な工程なのです。
「10年も経てば足の形も変ります」と石井さん。顧客の足型は保管していますが、時間が経てば寸法を取り直すこともあります。地域に密着し、長く通うファンを持つ老舗ならではのこだわりです。