鹿児島の味を紹介する第2弾。前回は海の幸、カツオのタタキを紹介しましたが、海以外にも黒豚などの魅力ある食材がいっぱいの鹿児島。地元食材のおいしさを生かした薩摩藩士伝承の郷土料理があると聞き、市内の郷土料理専門店〈正調さつま料理 熊襲亭(くまそてい)〉にうかがいました。
取材・文 : 富山紀子 Noriko Tomiyama / 写真 : 木下幸二 Koji Kinoshita
薩摩武士伝来の男の料理「豚骨」は、今や鹿児島県民の家庭の味
まずご紹介してもらったのは、黒豚をとろけるほど煮込んだ料理「豚骨」です。「その昔、武士が戦場で猪や野豚を仕留めた際に味噌で味つけして食べていた風習が、次第に農家に伝わり、お祝いや宴席の料理になったようです」と教えてくれたのは若女将の黒川真理さん。同様に「さつま汁」も家畜の鶏や豚を利用して作ります。根菜類をたっぷり使った上品な味の汁ものです。
なにより珍しいのは「酒ずし」。これは炊いたお米に酒をなみなみと注ぎ、一昼夜発酵させた「なれずし」。島津のお殿様の宴会で、残ったごはんとお酒を一緒にしたら、翌日芳香を放ったとか、表だってお酒を飲めない女性たちが考案した、などと諸説ある珍味。今ではめったに食べられない味ですが〈熊襲亭〉では創業以来、毎日仕込み、いつでも提供してくれます。
■豚骨
骨付きの豚肉に、ゴボウやコンニャクなどを合わせ、黒砂糖と、地味噌、地酒、ショウガでグツグツと煮込んだ料理だが、〈熊襲亭〉の調理法は繊細で味つけもまろやか。初代女将のレシピが伝承されているのだ。
人気料理、豚骨の仕込みを拝見!
<下茹で>
大ぶりの骨付き肉はフライパンで表面を焼いた後、一度下茹で。冷水で冷ました後、大鍋に移して水と焼酎、ショウガなどと一緒に2時間ほど茹でる。これをさらに冷まし、冷蔵庫で一晩寝かせたものがこれ。味をつける前に十分軟らかくなっているのだ。
<味つけ>
味噌(麦味噌、米味噌)、地酒(焼酎)、黒砂糖とショウガを合わせた鍋に、下茹でした豚肉を投入し、グツグツ煮込むこと30~40分。肉がすでに軟らかいからこれで十分に味が染み込む。〈熊襲亭〉の味つけは初代伝来。鍋の味噌味は創業時よりの継ぎ足しだ。
■さつま汁
鶏肉または豚肉を使い、ニンジンやダイコンなど季節の野菜とともに麦味噌で仕上げた鹿児島県を代表する汁もの。肉のだしがきいているが、飲み口はあっさり。今や全国区の料理「豚汁」のルーツといわれている。
■酒ずし
お米一升に地酒一升を加え、お酢をいっさい使わずに一昼夜発酵させた、たいへん珍しい「なれずし」の一種で、味わえるのは鹿児島県だけ。魚介が中心の具材も贅沢にあしらわれて絶品。食すほどに顔がほんのり赤らんでくる。
熊襲亭で鹿児島料理を満喫!
熊襲亭では、紹介した3品の他、キビナゴの刺身、カツオのタタキ、さつま揚げといった郷土料理や、今や鹿児島を代表する特産品「黒豚」を使ったスペアリブ(またはしゃぶしゃぶ)などが一度に堪能できる。写真は、貴コース。手軽なランチコースもあるので、鹿児島旅行の際にはぜひ立ち寄ってみたい。
種子島出身の若女将、黒川真理さん。「酒ずしは嫁いで初めて知った味ですが、今ではぞっこんです。ぜひ召し上がってください」。
<正調さつま料理熊襲亭>
鹿児島県鹿児島市東千石町6-10
Tel:099-222-6356
営業時間 11:00~14:30(14:00 OS)、17:00~22:00(21:30 OS)
休日 年末年始休