病に倒れた人の絶望感を癒やすことを願い、祈りを込めて富士山を撮り続ける、孤高の写真家、岳丸山の作品をシリーズでお伝えします。今回は、山中湖から撮影した「落日」。

朝霧を過ぎ本栖湖に入りいつものように湖畔で空模様を窺う。雲が厚い、目的地まではまだ一時間以上走る。

30分ほど時間を潰しハンドルを握った。撮影ポイントに到着、誰もいないことに肩透かしをくう。間もなく富士らしいシルエットが薄明の厚く黒い雲の筋間に浮かぶ、その光景がただならぬものであることをその時は知る由もなかった。この朝、人知の及ばぬ大自然の未知の光景を目の当たりにすることになる。手が震えフィルムがうまく交換できない……、1分が永遠に思えた。その光景の前に私はもはや粒子の濃淡と化し、宇宙の一元的広がりの中に溶け込んでいくようであった。

富士山を撮る、ということ

富士山撮影で一番重要なものは想像力である。
様々な気象現象をはじめ、地理条件、太陽、地球、月などの天体の動き、光の波長の長さや角度による色調の違いなどを撮影条件として頭にインプットし続けることによりその想像力は養われる。
そしてあらゆる情報が脳に蓄積されたのちに溢れ出したものが、イマジネーションである。私の場合は3年を費やした。
そしてその想像力を頼りに撮影に向かっても10回トライして数枚しか撮れないのが富士山である。

写真・文: 岳 丸山 Gaku Maruyama

静岡県在住。総合商社に勤務するも持病の心臓病が悪化した為、2003年退職。二度目の手術を受け奇跡的に生還。術後リハビリを兼ね富士山撮影を開始する。2007年から、写真による医療機関での福祉活動を目的として活動していたが、2020年2月、再び病に倒れて帰らぬ人となる。