四季の巡りと暮らしの節目に、神に祈り、祭りを行う。人々の熱き心、ほとばしる想いの瞬間を、写真家・森井禎紹が切り取ります。
今回は、毎年3月3日、和歌山県和歌山市加太の淡嶋神社で行われる「雛流し」です。
写真・文 : 森井 禎紹 Teiji Morii
雛流し。雛人形に祈りを込めて海に流す
淡嶋神社の雛流しは、全国各地から奉納された雛人形と、願い事を書いた形代(かたしろ=お祓をするときに人間の身代わりとしてつかう人形)を、3隻の白木の小舟に乗せて、宮司のお祓いののち、海に流す神事。現世の穢や災厄を撫物(なでもの)である人形に祈りをこめ流し送る。
その日、淡嶋神社の拝殿にはむせかえるように人形がぎっしりと並び、幻想の世界が目の前に広がり妖しげな雰囲気に呑まれそうだ。
またこの日は、朝早くから、それぞれの思いや願いと共に、関西はもとより、全国から女性達が境内に集まってきて、神社の中は人々の熱気でむせかえる。
そして正午頃、雛流しの神事が厳かに始まります。それぞれ雛人形に願い事を書き舟に乗せる。
本殿でお祓いを受けた人形を満載した白木の舟がしずしずと進んで行く。おだやかな春の海に千羽鶴がまかれ、まるでそれは神に国へと続くかのようだ。
舟に満載の雛人形たちは、先導する舟に引かれ、沖へ沖へと向かって行く。波のまにまに揺られて、心が澄み渡る瞬間がやってきた。