病に倒れた人の絶望感を癒やすことを願い、祈りを込めて富士山を撮り続ける、孤高の写真家、岳丸山の作品をシリーズでお伝えします。今回は、山中湖から撮影した雲海。

久々に胸の鼓動が聞こえる。
満月の夜、湖畔は霧で覆われ、高台からは雲海となって見渡せた。月光はその雲海を煌々と照らす。時と共に変化を繰り返す霧、湖畔の灯りが投影され淡く色づく。
満月は日の出と20分足らずの差で富士の山際に沈む。黎明の空に、月光は富士と雲海を間近に照らし、幻想の色彩を生むはずだ。
自然の摂理が生み出す刹那の彩、それは人知を遥かに超える。

富士山を撮る

どんな光景に出会えるか? 上手く捉えることが出来るか?

数ある富士山撮影の中で、垂涎の的であり、かつ出会う事が難しいのが雲海と富士の組み合わせであろう。 撮影するにはまず雲海の発生メカニズムを知悉しないと巡り会うことは叶わない。雲海の発生のメカニズムと具体的撮影術を簡潔に紹介する。  

(1)なぜ水蒸気は発生するか?

水温は大気温の上下の変動により影響され、少しタイムラグをもって上げ下げする。例えば雲海の発生し易い夏から秋にかけては、まず大気温が下がり始め、次に時間差をもって水温が追いかけ下がる。その際、暖かい水が冷たい空気にあたって水蒸気が発生する。

(2)一番雲海が出やすいシーズンはいつであろうか?

それは、水温と大気温の差が一番激しくなる端境期、夏から秋と、春から夏の2シーズンになる。 

(3)水蒸気の発生源はどうであろうか?

水蒸気の元になる水源が、発生場所の近くに豊富にあることも肝心である。例えば、沼、湖、比較的大きい河川などである。  

(4)気候的にはどうであろうか?

山間部や盆地などを低気圧が通過して湿度が高くなったとき、放射冷却によって地表面が冷え、それによって空気が冷やされていく。ここで風の流れがない場合に、空気中の水分が霧となって発生する。  

(5)最後に、撮影スポットに向かうタイミングはどうだろうか?

様々なデータや、経験により、今日はどこそこに雲海が出る確率が高いと判断した場合は、向かう途中で槍が降っても引き返さないことである。日の出と共に膨張する雲海に陽光が射し込み、刻々と雲の色彩は変化を続ける。その光景は筆舌に尽し難く、それは迷わずその場に立とうと決めた、貴方へのご褒美である。

写真・文: 岳 丸山 Gaku Maruyama

静岡県在住。総合商社に勤務するも持病の心臓病が悪化した為、2003年退職。二度目の手術を受け奇跡的に生還。術後リハビリを兼ね富士山撮影を開始する。2007年から、写真による医療機関での福祉活動を目的として活動していたが、2020年2月、再び病に倒れて帰らぬ人となる。