日本在住のフランス人、ブノアさんが、独特の視点で日本を捉えたビデオレポートです。
今回は,富山県、五箇山の合掌づくり集落をレポートします。
Video footage : テブニ・ブノア Theveny-Benoit / 文 : 藤沼 裕司 Yuji Fujinuma
私を最も魅了した村
念願の五箇山合掌集落への訪問。急傾斜な茅葺き屋根、美しい山里の景観、というイメージはもっていたが、実際どのような旅が待っているのか。
1日目、相倉集落を散策。心配していた観光地化を感じる事もなく、私たちは静かで趣のある美しい環境の中で地元の方々と触れ合い、伝統文化を体験し、リラックスした時間を過ごすことができた。
その日は合掌づくりで1泊、翌日には菅沼集落に立寄った。そこは私を最も魅了した村だった。
相倉から少し離れたこの集落は、観光客の姿もなく、誰も知らない秘密の楽園を発見した気分になった。(デブニ・ブノア)
五箇山の合掌づくり集落
本州ほぼ中央部の日本海側に位置する富山県。五箇山はその南西の外れ、岐阜県との境をなす険しい山並みに抱かれた山間集落の総称です。
この一帯は有数の豪雪地帯で、以前は冬になると大量の雪に外の世界との交流を阻まれました。このような山深い里の暮らしを支えてきたのが合掌づくり家屋で、現在では相倉(あいのくら)集落に23棟、菅沼集落に9棟が残され、山村の生活文化を伝える貴重な歴史的遺構として1995年に世界遺産に登録されました。
合掌づくりとは、茅葺き屋根に床面積が広い多層構造の民家建築で、屋根の形状はほぼ正三角形で急傾斜、そうすることで雪が積もるのを防ぎます。建物には釘などの金物類はいっさい使われず、部材どうしの結束には柔軟性に富んだ植物の細枝を用いています。
このような自然材に徹したつくりは建物に柔軟性をもたせ、積雪による荷重や風圧による負担を緩和して建物を長持ちさせるとされます。
建物はもちろん大家族の住まいですが生産の場でもあり、2階以上から屋根裏では養蚕、1階土間では製紙、縁の下では火薬の原料になる塩硝の製造が行われ、雪に閉じ込められる冬場はひたすら屋内労働に従事しました。
現存する合掌づくり家屋の多くは19世紀後半の建築で、最古とされる建物は17世紀まで遡ると考えられています。これらの建物を維持し守るために、先人は雪崩を発生させないように集落背後の山林にはいっさい斧を入れずにきました。
これを雪持(ゆきもち)林(りん)といい、今では豊かな森を形成して合掌づくりの背景をなし山里の景観にいっそうの趣を添えています。(藤沼裕司)