世界文化遺産の日本食と最もマッチする酒「日本酒」。 ここでは、この世界に誇るべき日本酒が、どのような人たちによって、どのように造られてきたのか見てみましょう。
日本酒の造り手=蔵人、杜氏
中世から受け継がれてきた酒造りの技術が、より専門性を帯びたのは、江戸時代初期、「寒造り」の製法が優れていると認知されたことが大きな理由でした。
「寒造り」とは、気温が低く、雑菌が繁殖しにくい冬場に酒を仕込むことです。酒造りは、ほぼ一年を通して行われていましたが、気温が高い季節にはもろみが腐敗し、貴重な米を無駄にしてしまうこともありました。そのため江戸時代前期、幕府による「酒造統制・寒造り以外の禁」が発令されたのです。
酒造りに従事したのは、農閑期の冬場だけ農村漁村から出稼ぎにくる人たちでした。そのため、酒造りに適した時期と農閑期が重なっていたことから「寒造り」が主流となりました。
やがて、米の知識がある農民の中から、酒造りの技術者が生まれます。酒蔵で酒造りに従事する人たちは「蔵人」と呼ばれ、その中でも酒造りすべての工程を統括する長を「杜氏」と呼びました。酒蔵の需要に伴い、全国各地に杜氏集団が形成され、杜氏たちはそれぞれの地域の気候風土によって異なる酒造りの奥義を伝承してきました。
しかし、近年、都市化による農村の変化や杜氏集団の高齢化などの問題から、伝統的な杜氏集団の編成や雇用が難しくなってきたのも事実です。
最近では、杜氏を雇わずに、蔵元みずからが酒造りを行う「オーナー杜氏」も珍しくなく、また、年間雇用の社員たちによる酒造りも行われるようになっています。
日本酒の作り方=製造工程
秋に収穫された米を使って、冬の間に酒造りを行い、春に新酒が誕生するというのが、一般的な日本
酒造りの流れです。
日本酒は米と水、米麹で造るシンプルなお酒ですが、その醸造には、麹菌の力を借りて米のデンプンを糖化し、さらにその糖が酵母によってアルコールが生成されるという、非常に複雑な工程が存在します。これは「並行複醗酵」と呼ばれ、世界でも類を見ない醗酵工程です。
昔から酒造りの極意は「一麹、二酛、三造り」といわれています。純米酒の酒造工程の図には簡単に「麹米」「酛」と書かれていますが、麹造り、酛造りは日本酒の風味を左右する作業であり、杜氏たちの技術が問われる極めて重要な工程です。原料はシンプルでも、おいしい日本酒が私たちのもとに届くまでには、いくつもの工程と酒造りに携わる人たちの多大な労力が注ぎ込まれているのです。
ちなみに、原料に使う米は、私たちが普段食べている米より粒が大きく、特に酒造に適したものを「酒造好適米(醸造用玄米)」と呼びます。全国で28品種が指定されており、主な品種に「山田錦」「五百万石」「美山錦」「雄町」などがあります。
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