病に倒れた人の絶望感を癒やすことを願い、祈りを込めて富士山を撮り続ける、孤高の写真家、岳丸山の作品をシリーズでお伝えします。今回は、山中湖から撮影した「落日」。
写真・文 : 岳 丸山 Gaku Maruyama
2月の上旬、駿河湾から湧き上がる水蒸気は、北風により富士の山麓を駆け上がり、やがて冷やされて雲となり、南側(静岡側)の稜線にまとわりつく。大寒を過ぎた厳冬期の凍てつく大気の中でも、底冷えする無風日以外は、この現象がつきまとう。
この日は珍しく雲ひとつない冬晴れの空の下、見事な夕日が富士の頂に沈んだ。数年来待った瞬間である。
初めて落日のダイヤを見る者は、その沈む刹那の速度に驚く。夕日はまさに瞬きをする間に姿を隠す。22年ぶりに全面氷結した湖面に輝く落日である。
富士山を撮る、ということ
ダイヤモンド富士には、昇るダイヤと沈むダイヤがある。富士山を挟んで西側が田貫湖で有名な昇るダイヤであり、東側の代表的なものが山中湖の沈むダイヤである。田貫湖では4月と8月の午前6時頃、山中湖では、10月から2月の午後4時前後に毎年見る事が出来る。
太陽と地球の距離は、約1億500万km離れており、余りにも遠いため、太陽は毎年同じ位置から昇り、沈む。地球の自転速度は、両撮影ポイントの緯度で秒速約380mであり、富士山頂上を通過する速度はほんの一瞬である。
ダイヤモンド富士を撮影する場合、いかにして山頂の中心に太陽を置くかが勝負の分かれ目となる。田貫湖の場合は、ガイドブックに詳しい日にち別の昇る位置(太陽が頂上にかかり昇る日数は5日ほどある)が案内されているため比較的分かり易い。好みの位置にいかにして陣取るかが勝負である。 一方山中湖の場合は、10月から翌年2月迄とダイヤの撮影可能期間が5ヶ月間と長いため、経験が必要となる。撮影場所に関しては余裕があり、田貫湖ほど陣取りはシビアではない。 現在、田貫湖のダイヤモンド富士は余りにも有名になり過ぎ、観光バスで全国からカメラマンが押し寄せるほどである。ベテランカメラマンは、当然このような混雑する撮影地を嫌い、足を運ばなくなる。
山中湖のダイヤは、天候条件をクリアすることが難しい。夕刻の撮影になるため、真冬といえども、雲の発生が頻発するからである。また秒速380mで沈む夕日を、山頂の真ん中に置くのも至難の技である。沈む夕日である為、その前段階の軌道を目で追いながら一番良い位置取りを予想すれば良いのだが、それがまた難しいのである。
最後に、太陽が放つ光条の本数も写真のイメージを大きく変える。この場合、レンズの絞り羽の枚数が、光条の本数を決める要因となる。偶数の絞り羽のレンズは、その羽の枚数がそのまま光条の数となる。例えば8枚羽のレンズでは、光条は8本出る。一方、奇数の絞り羽のレンズは、その羽の枚数の倍の数の光条が出る。例えば5枚羽のレンズでは、光条は10本となる。またレンズの設計が優れているほど、光条の切れも良い。