<鹿児島> 自然とテクノロジーの融合美 <br />
日本ダム百景 vol.9 曾木発電所遺構
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日本ダム百景 vol.9 曾木発電所遺構

1年の半分以上は大鶴湖の水面下に沈んでいるが、ダムの水位を下げる6月~8月の3か月間はその全容を見せてくれる。赤レンガ造りで、中世ヨーロッパの居城跡を思わせる姿は、スタジオジブリ制作の「天空の城ラピュタ」を思い起こさせる。

大鶴湖、暴れ川を制する

鹿児島県内を流れる川内川が観光スポットとして熱い視線を集めています。渇水期になると中流域にある「大鶴湖」に中世ヨーロッパの居城跡を思わせる、「天空の城ラピュタ」が出現する。

大鶴湖は県北西部を流れる川内川の中流に洪水調節と発電を目的として1965年(昭和40年)に建設された「鶴田ダム」の別称です。熊本県の白髪岳(1417m)を源流にし、宮崎県の西諸県盆地を西に下って、「曽木の滝」から鶴田ダムを経て川内平野から東シナ海に注ぐ川内川。

流域は年間降雨量がおよそ2700ミリと言うから多雨地帯である。台風や梅雨の時期になると豪雨により氾濫し、下流域では水害が発生する暴れ川でした。

明治以降、小規模な防災ダムが建設されてきましたが洪水被害を防ぐことができませんでした。過去の洪水被害を教訓に建設省は、西日本一の巨大ダム鶴田ダムを建設したのです。その後、大規模な改修工事が行い洪水調整機能を一段と強化しました。今年九州地方を襲った台風8,9,10号の際は、洪水調節がうまくいき水害を未然に防ぐことができました。大鶴湖は住民に親しまれる防災ダムになっています。

災害を教訓に巨大ダムが出現

川内川は住民を苦しめてきた暴れ川でしたが、大鶴湖は洪水から住民を守るだけでなく、観光資源としても地元に貢献しています。

鹿児島県は明治以降、下流から上流に向かい順番に治水ダムを作ってきましたが、災害は大型化し毎年、台風や集中豪雨の度に下流域の住民を苦しめてきました。枕崎台風(1945年)やジェーン台風(1950年)などの水害は今も記憶に新しいという。

鶴田ダム建設省(当時)の川内川総合開発事業として洪水調節と発電事業(電源開発会社が担当)を目的に、西日本では最大の巨大な多目的ダムとして建設された。最初は1954年(昭和29年)の鹿児島県北部を襲った集中豪雨被害を洪水基準に計画されていましたが、台風や豪雨被害が激甚化してきたのを受けて、当初計画を変更し約35メートル嵩上げし高さ117.5メートル、総貯水容量1億2300万トンの巨大ダムが誕生しのです。これにより毎秒700トンの洪水をカットできるようになりました。

湖に沈んだ、産業遺構・曽木発電所

観光資源としても魅力的な大鶴湖ですが、ダムの完成により地域から消えたものが二つありました。負の側面です。一つは薩摩町、大口市の1市2町村にまたがる90戸の民家と公共施設30棟、合わせて120世帯が水没し町が湖底に消えました。もう一つが、明治時代に日本の工業化に貢献してきた「曽木発電所」です。明治42年に竣工し、国内でも最大級の発電所として明治42年に竣工しました。

少し歴史を振り返ってみましょう。現在のチッソ(株)や旭化成工業(株)の設立者である野口遵(のぐちしたがう:1873年~1944年)によって設立された曽木電気(株)の第二発電所(6700kW)として建設されました。野口は牛尾大口金山に電力を供給するため、「曽木の滝」(滝幅210メートル、高さ12メートル)を利用して電気事業を起こしました。鉱山供給の余剰電力を使って、新たにカーバイト生産も始めました。

会社は戦前における日本最大の化学会社へと発展したことから、この発電所は遺構として今も残り、「日本化学工業発祥の地」と評されています。曾木の滝は「東洋のナイヤガラ」と呼ばれ川内川流域の名所のひとつになっています。公園からは、しぶきをあげて巨岩を下る濠漠の迫力は圧巻です。公園から水圧鉄管跡越し眺める曽木発電所遺構は、湖面いっぱいにロマンの香りを湛えています。

観光スポット「天空の城ラピュタ」として蘇る

曽木発電所遺構。一年の半分以上は大鶴湖の水面下に沈んでいますが、ダムの水位を下げる6月~8月の3か月間はその全容を見せてくれるのです。総煉瓦積発電所跡は、赤レンガ造りで、中世ヨーロッパの居城跡を思わせる姿を、スタジオジブリ制作の「天空の城ラピュタ」にダブらせるダムファンも多いそうです。

一度は水没し、人びとの記憶から消えかかった曽木発電所でしたが、日本の近代工業化に寄与した発電所の偉業を後世に残そうと大口市(現在の伊佐市)を中心に保存活動が始まり、2004年(平成16年)国土交通省の鶴田ダム管理所は補強工事に着手しました。堆積土の掘削、鉄骨補強、壁面補修、レンガによる補修などを大掛かりな工事でしたが、2010年補修工事を完了し、天空の城ラピュタがお目見えしたのです。工事費用をねん出するため、この補修工事では補修レンガに自分の名前を書き入れる「レンガサポーター」約1600人も参加した。ですから、発電所遺構は市民手作りの観光スポットでもあるのです。

市民の熱意と努力が実り、2006年には「有形登録文化財」に登録され、翌2007年には「近代化産業遺構」に認定されました。遺構が全容を現すのは渇水期だけですが、湖水面の高さにより姿を変える遺構の姿も秘境の城を思わせる眺めで一興です。季節になると、湖の上から眺められる船上ツアーもあります。貯水位と発電所遺構の関係は、パソコン上で確認できます。

新たな魅力「エイジング焼酎プロジェクト」がスタート

鶴田ダムは、洪水調整能力を向上するために、通常機能を維持しながら、大規模なダムの改修を行ったことでも有名になりました。季節のダム堤の中腹に大きな穴を開けて新たに洪水調節用の放水口を設けたのです。これにより豪雨時には早期に調整放流できるようになりました。放水口を二つ備えたコンクリート重力ダムは珍しく、もう一つ魅力が加わりました。

鶴田ダムの最新の話題は「エイジング焼酎プロジェクト」ですね。ダムの地元さつま町と観光倒産品協会、ダム管理所が連携して、今年(令和2年)7月から「鶴田ダム エイジング焼酎プロジェクト」をスタートさせました。地下87メートルのダム堤内の地下通路の一部を利用して、地元の焼酎を貯蔵、熟成させて味わうというプロジェクトです。

庫内の温度は年間を通じて20℃前後で、熟成すると焼酎はまろやかな味わいになるそうです。貯蔵期間は1年から最長20年だそうです。試してみたいですね、焼酎は地元3蔵元の「伊勢吉どん」「園乃露」「紫尾の露」の3銘柄。

問合せは、さつま町役場商工観光PR課 :0996(53)1111

ダム堤の脇にダム管理所、ダム公園があります。曾木発電所遺構はここから国道267号、または県道404号を通りクルマで約30分のところにあります。遺構公園からの眺めにきっと癒されます。

曾木発電所遺構(曽木発電所跡)

〒895-2526 鹿児島県伊佐市大口宮人