緑の葉が秋を迎えて黄色や赤にすがたを変える紅葉。山々を、街中を、錦に染めるそのとき、個々の葉の中ではなにが起こっているのでしょうか。
文 : 竹中明夫 Akio Takenaka / 絵 : 朝生 ゆりこ Yuriko Aso
Keyword : 紅葉.
植物の葉が緑色をしているわけ
元気な植物の葉は、ふつう緑色をしています。これは、緑色の色素であるクロロフィル(葉緑素)が葉の細胞の中にたくさん入っているからです。
光合成はクロロフィルが光を吸収することから始まります。植物が生きていくために、クロロフィルはなくてはならない色素です。まれに緑色をしていない植物もありますが、それは他の植物から養分を吸い取って生きる寄生植物などに限られます。
植物が光合成をするのに、クロロフィルだけあればよいというわけではありません。いろいろなタンパク質もいっしょに働いていますが、その他に、カロテノイドと呼ばれる黄色い色素も協力しています。ふだんはクロロフィルの緑と重なってしまい分かりませんが、緑の葉はいつも黄色も含んでいます。
緑から黄色に変化する場合
ひと夏のあいだ働いた落葉樹の緑の葉は、秋になり気温が下がってくるとそろそろ活動停止。木は冬に向けて葉を落とす準備を始めます。
そのときにクロロフィルの分解も始まります。クロロフィルの緑色が消えると、それまで隠れていたカロテノイドの黄色が目につくようになります。これが黄色くなる仕組みです。
イチョウ、カツラ、ポプラなどはきれいな黄色い葉となります。上のイチョウの図は、葉が黄色くなる途中の様子です。葉のへりから緑のクロロフィルが分解されていき、柄の近くに少しまだ緑が残っている状態が見えますね。ほどなくこの緑も消えてすっかり黄色くなります。遠目に見ても黄色にどこか緑が混じったようなイチョウの木を見掛けたら、近づいてみると変身途中の葉を見ることができるでしょう。
緑から赤色に変化する場合
黄色ではなく赤い紅葉となるには、緑のクロロフィルが壊れるだけではなく、赤い色素が新たに作られる必要があります。植物の葉が作るのは、アントシアンと呼ばれるグループの色素で、この色素が作られるのは葉の表皮の細胞だけです。
もともとここの細胞は、ごく一部を除いて緑色のクロロフィルを含んでいません。クロロフィルの分解作業と、アントシアンの合成作業は、それぞれ別のところで進みます。
緑の色素が分解され、赤い色素が作られることにより葉は赤くなります。イロハモミジの他、ツタ、ナナカマド、ハゼノキなどは鮮やかな紅葉を見せてくれます。
いくらアントシアンが作られても、クロロフィルが残っていると鮮やかな赤とはなりません。また、作られるアントシアンの量が少ないと赤みが薄い紅葉となります。同じ種類の木でも、気温の下がり方などちょっとした条件の違いで色の違いが生じます。街路樹によく植えられるトウカエデやアメリカフウ、それにソメイヨシノもさまざまな色みの葉が混ざります。これもまた風情があってよいものです。
ところで、枯れ落ちる直前の葉でわざわざアントシアンを作って赤くなると、植物にとってなにかよいことがあるのでしょうか。花が花粉を運ぶ虫を惹き付けるような意味はないでしょうし、私たちの目を楽しませてくれるためではないのも確かです。
いろいろな説はあるのですが、まだはっきりしたことは分かっていません。
常緑樹の紅葉、新葉の紅葉
秋、落葉樹の葉はいっせいに色づき、散っていきます。そのイメージが強いので紅葉は落葉樹だけのものと思いがちですが、常緑樹でも葉が赤くなる現象は見られます。一年中緑の葉をつけている木でも、一枚一枚の葉がいつまでも生き続けるわけではありません。芽吹いてから1年後、2年後、あるいは数年後には散っていきます。そのとき、緑のクロロフィルが分解され、さらに赤いアントシアンが作られる種類もあります。
よく庭木に使われるモッコクは、深い緑の葉の中に時折赤い葉が混じっていて、まさに紅一点といった様子です。また、西日本で見られるホルトノキはほぼいつも木のどこかに赤い葉があり、この種類を見分ける特徴の一つになっています。
秋の紅葉だけではなく、新しく作られる葉が赤い木もあります。アカメガシワは芽吹いた新葉が赤いのが名前の由来ですし、庭にも植えられるカナメモチは新葉の赤さが見どころです。
特にカナメモチの園芸品種であるレッドロビンの赤は鮮やか。これはクロロフィルが作られるのが遅く、その前に赤いアントシアンがたくさん作られるからだろうと想像がつきますね。緑と赤がかさなって黒ずんだ新葉を作る木もあります。
緑、黄、赤の3種類の色素が作られたり壊れたり、そのパターンの組み合わせが季節の彩りの多様な変化を生んでいます。