ご当地の産物や気候風土に合わせ、そしてその土地の食文化に合わせて、日本全国でさまざまな美味しいお酒が作られています。なかでも大衆酒として長い間親しまれてきた焼酎は、20世紀末に大きく花開き、一大ブームとなりました。ここでは、個性溢れる素晴らしい味わいの焼酎を楽しむための基礎知識をお伝えします。

Days of Wine and Roses(酒とバラの日々)

映画のワンシーンだけでなく、お酒は人生に華を添えてくれるもの。

種類だけ考えても、ワイン、ビール、ウイスキー、ジンなどなど。それらを使ったカクテルを加えたら、それはもう星の数ほどありますね。

その中の基本中の基本、「醸造酒」と「蒸留酒」について知っておきましょう。

醸造酒とは、果実や穀物などの原料の糖分をアルコール発酵させたお酒のこと。ブドウを醸造したワイン、麦を醸造したビールなどが有名です。日本酒はこの醸造酒の仲間です。

タリア・ピエモンテのぶどう畑

蒸留酒とは、醸造酒を加熱・沸騰させ、気化させたのち冷却してアルコールを抽出したお酒のこと。沸点の低いエタノールが先に気化する性質を利用して、この蒸気を集め冷却して液体に戻すことで造られます。麦を蒸留したウイスキー、ブドウを蒸留したブランデー、サトウキビを蒸留したラム酒などが有名です。焼酎はこの蒸留酒の仲間です。

スコットランドのウイスキー蒸留機

「本格焼酎」ってなんでしょうか?

焼酎、といえば昔はオジさんが飲む安くて臭くて強い酒、といった印象でしたが、数年前の大ブーム以来、ジャズが流れるオシャレな空間で楽しむイメージへと変化しました。

蒸留酒である焼酎は、製造方法から、単式蒸留焼酎と連続式蒸留焼酎とに分けられています。

単式蒸留焼酎(=乙類焼酎)は、芋類や穀類などを原料に、麹、酵母、水を加えて発酵させ、1回のみ蒸留したもの。昔ながらの製法である単式蒸留機は構造がシンプルなため、原料が持っている香りや味わいを含んだままのアルコール分が取り出されます。かつて「旧式焼酎」と呼ばれていましたが、1971(昭和46)年に法律が改正され、500年余の歴史を持ち、伝統の製法を受け継いで作られてきた本格派の焼酎であることから、「本格焼酎」という呼び名が認められるようになりました。アルコール分45度以下、原料などに厳しい規制があります。

焼酎が作られるようになってから明治中期に至るまでは、単式蒸留機での製造のみでしたが、イギリスから連続式蒸留機が輸入され、高純度アルコールが安価に大量生産できるようになりました。これを連続式蒸留焼酎(=甲類焼酎)といい、伝統的な焼酎に対して「新式焼酎」と呼ばれました。アルコール度数は36度未満に定められ、無色透明、ピュアでクセのない味わいで、現在は酎ハイやサワー、果実酒などで楽しまれています。

焼酎造りの麹とは?

お酒を作るにはその原料を糖化させなければなりません。日本を含むアジア地域では、基本的に「麹菌」を使ってその作業を進めます。

焼酎造りに用いる麹菌には、黄麹、黒麹、白麹の3種。

黄麹は日本酒、味噌、醤油、酢などを醸す代表的な菌種で、古くから利用されていましたが、温暖な気候では発酵がうまく進まない、という難点がありました。1910年ごろ、科学者であり実業家の河内源一郎が沖縄の泡盛で用いられる黒麹菌を元に培養に成功します。

黒麹はクエン酸を多量に生成することからアルコール発酵中のもろみの腐敗を防ぐという優れた特性を持ち、気温の高い地方でのアルコール醸造に適していたことから焼酎の品質を劇的に向上させ、現在も使われる種麹が作られました。ただし、黒麹は、温度管理が難しいこと、その胞子が持つ黒色色素が作業場を汚すことが難点でした。

その後、河内源一郎が、黒麹から突然変異体として単離した菌種・白麹を発見し、九州地方の焼酎文化は一層の発展を遂げることになります。

「本格焼酎」にはどんな種類があるの?

今や、繊細で香り高い焼酎がたくさん登場しています。主な種類とその原料、そしてその特徴がよく表れている商品も合わせをご紹介します。

芋焼酎 主原料:サツマイモ

さつまいもの甘い香りとほのかな甘みが特徴で、鹿児島県と宮崎県南部が主産地です。原料として最も多く使われている品種はデンプン質の多いコガネセンガンで、他にベニサツマ、ベニアズマなどがあります。

麦焼酎 主原料:ムギ

多くの酒類の原料にもなっている麦。麦焼酎は長崎県壱岐島で誕生したといわれ、米麹に麦を掛ける麦焼酎を壱岐焼酎と呼びます。現在は九州全県で作られますが、特に大分県が主産地で、麹も仕込みも大麦という「麦100%」の大分麦焼酎は全国でブームになりました。

米焼酎 主原料:コメ

多くの焼酎で、アルコール発酵させるための麹造りに使われるコメ。次の工程でイモ、ムギ、ソバなどの原料が加わり各種の焼酎となるので、麹、原料ともコメを用いたものが米焼酎です。熊本県人吉地方の球磨(くま)焼酎が有名です。

泡盛 主原料:タイ米

沖縄県の伝統的な焼酎で、原料の米全てを黒麹菌のみを使って米麹にし、水と酵母を加えて発酵させる「全麹仕込み」で造られます。一般的な焼酎が1次仕込み、2次仕込みという工程を経る点が大きな違いです。長期貯蔵(3年以上)したものはクース(古酒)と呼ばれます。

黒糖焼酎 主原料:サトウキビ

鹿児島県の奄美諸島のみで生産されている焼酎で、サトウキビの絞り汁から作る純黒砂糖と米麹が主原料です。黒糖の甘い香りが特徴です。

原料の特徴が際立つ名品。左から、芋焼酎・八千代伝(白)〈八千代伝酒造〉、安田〈国分酒造〉 麦焼酎・牟禮鶴 黄鐘(むれづる おうしき)〈牟禮鶴酒造〉 球磨焼酎・川辺〈繊月酒造〉 泡盛・春雨〈宮里酒造〉 黒糖焼酎・長雲 一番橋〈山田酒造〉

*焼酎は、この他ソバ、豆類、ごま、ヒエ、アワなどの雑穀、植物の葉など、さまざまな原料を使って作られます。

焼酎ボトルのラベルを見ると、「本格焼酎」の表記や主原料、使われている麹菌の種類などの情報が書かれているのでぜひ見てください。そして、地域や原料、造り手によって異なる焼酎の魅力を存分に楽しんでいただけたらと思います。