武家屋敷や寺、神社などには、いかにも日本風の柔らかな屋根を持った建物がある。ひとつは檜の皮を重ねて葺いた檜皮屋根。そしてもうひとつは杉や檜、サワラ、クリなどを薄く割って葺いた「コケラ屋根」である。今回はこのコケラ屋根の話。

コケラは「𣏕」と書く。果物の「柿」とは違う。作りが鍋蓋(なべぶた)ではなく、真っ直ぐ一本の線が一画で通っている。

新しい劇場での最初の公演を「コケラ落とし」というが、新築の屋根などに残った木の屑もコケラというので、その木屑を払って行う最初の興業をそういうのだそうだ。 

私は1947年、秋田県生まれであるが、入学した小学校の建物の一部にコケラ屋根が残っていたし、町の造り酒屋の屋根もそうだった。秋田の田舎ではコケラのことを「ザク」とか「木っ端(こっぱ)」と呼んでいた。秋田杉がふんだんにあったので、民家や大きな建物にも使われていたのだろう。しかし、火災には弱い。やがて瓦や鋼板葺きに替わっていった。

コケラ割り職人と葺き職人

それでも文化財や国宝級の建物修復や復元には今でも杉や檜の板を割り、葺き替えが行われている。この仕事には二つの職業が関わっている。

まずはコケラを作る「コケラ割り職人」。そして屋根を葺く「葺き職人」。専門にコケラを作る人や葺き手専業者もいたが、多くは両方を掛け持っていた。

コケラにする材は割りやすいものでなくてはならない。杉や檜、サワラはそれに適していた。職人が言うには「地味(ちみ)のいいところで育った杉は割れない。岩が多いような栄養分の少ないところでじっくり育ったものは刃をあてただけでパンと割れるもんだ」と。

杉でいえば基本は天然杉。植林の地味のいいところで成長を早めた杉では目が粗く、風雨、雪には耐えられない。クリは堅い木であるが、きれいに割れる。軒先などの傷みやすいところはクリを使う。

天然杉は貴重品だ。建物の柱や天井材、板材として効果に取引される。屋根に葺く材として、そうした良材を使うのではもったいない。コケラ用に使うのは伐根(ばっこん)部分である。かつては木の伐採は、成長の止まった冬期間に行った。雪の上であれば倒しても傷まず、運び出しに便利であった。根に近い部分はアテと呼ばれ、風に耐え、雪の重みから甦り、倒れぬように根を張り、繊維が丈夫になっている。雪の中ではこの部分は埋まっている。そのため、建材に使えぬアテの部分は残してその上から鋸(のこぎり)や斧を入れて切り倒した。 残った部分を伐根という。この部分を屋根材や樽材に使ったのである。

屋根を長持ちさせ美しく葺くために

コケラ割りは、伐根を払い下げしてもらい、小屋掛けして作業をした。

まずは「玉切り」。大きな鋸で、8寸(約24cm)の長さの丸太に切り分ける(図1)。この8寸は、できあがったコケラの寸法になる。

この丸太の木口(こぐち)に大型の鉈(なた)を当て六つに割る。「大割り」という作業だ(図2)。「蜜柑割り」ともいう。

この△の形に鉈を当て、1寸2分(3.6cmに)割っていく(板割り・図3)。割り方は柾目、中心を通る線に沿って割る。そのために幅は次第に狭くなり、大きさの違った板になる。割った後に樹皮に近い白太と呼ばれる部分は削りとる。材質がやわらかで腐りやすいからだ。

この板の木口をセンという鋭い刃物で削る(セン掛け・図4)。鋸の切り口はぶさぶさで水がしみ込みやすいからだ。センを掛けた切り口は光沢を持つ。この一仕事で屋根は長持ちするのだ。

これで板は仕上がりではない。この1寸2分の板を更に8枚に割る(小割り・図5)。

出来上がった板の厚さは1分5厘(4.5mm)。この薄い板の尻側をわずかに細く、薄く削ぎ取る(図6)。屋根の上で重ねて葺いたときに厚くぼってりならぬように一作業しておくのだ。

職人達は屋根を長持ちさせ美しく葺くために仕事を惜しまなかった。

腕のいい職人も老いていく

こうして出来上がったコケラを屋根に葺くには、軒にクリ材の厚い軒ザクを打ち付け、その上に幅の違うコケラを並べ釘で打ち付けていく。軒先は初め2枚重ね。次は5分(1.5cm)空け、8分(2.4cm)空けを2回、そこから先は1寸(3cm)空けで重ねて打ち付けていく。同じ幅のコケラでは同じ場所に隙間が出来るが、幅の違うコケラを並べて隙間が上下で重ならぬようにしていく。こうすると屋根の上では6枚から7枚のコケラが重なり、幅の違うコケラの木口が美しい紋様を作り出す。

屋根の縁の曲線は「箕の甲」と呼ばれ、腕の見せ所だ。線を揃え、柔らかで優雅な曲線を生み出す。

天然杉は少なくなり、腕のいい職人も老いていく。新しい人材が修業を積んでいるが、仕事も多くない。腕を上げるには現場を重ねること。難しい時代である。各地で見かけるが、東京でも東村山市に正福寺地蔵堂という重要文化財の素晴らしいコケラ屋根がある。機会を見つけて、いい仕事を見ておくことだ。

文: 塩野米松 Yonematsu Shiono

1947年生まれ。秋田県出身。東京理科大学理学部応用化学科卒業。作家。アウトドア、職人技のフィールドワークを行う。一方で文芸作家としても4度の芥川賞候補となる。絵本の創作も行い、『なつのいけ』で日本絵本大賞を受賞。2009年公開の映画『クヌート』の構成を担当。聞き書きの名手であり、失われ行く伝統文化・技術の記録に精力的に取り組んでいる。主な著書『木のいのち木のこころ』(新潮社)、『失われた手仕事の思想』(中央公論社)、『手業に学べ』(筑摩書房)、『大黒柱に刻まれた家族の百年』(草思社)、『最後の職人伝』(平凡社)、『木の教え』(草思社)など多数。