日本各地で神様が不在となる神無月、日本中の神様は、出雲に集まると言われています。この時期、出雲では、これら日本中の神様を迎える神事「神在祭(かみありさい)」が行われます。

稲佐の浜で神々を迎える、出雲大社の神在祭

旧暦の10月10日に稲佐の浜で行われる出雲大社の神迎神事。掃き清めた砂浜に篝火(かがりび)を焚き、海から神様を迎える

全国的に旧暦の10月(※1)は神無月と呼ばれ、神様が不在となる月とされています。この時期、日本中の八百万の神は出雲地方に集まると伝承されており、出雲では旧暦の10月を神在月と呼ぶのです。出雲では現在10社の神社が、それぞれの伝承に基づき、神様をお迎えする神迎神事やお見送りする神等去出祭などを行っています。

(※1 旧暦の10月=新暦では10月下旬から12月上旬頃)

旧暦の10月10日の夜、出雲大社から約1㎞のところにある稲佐の浜では、神迎神事が行われます。砂浜に篝火が焚かれ、祝詞が奉上されると、辺り一帯は厳粛な雰囲気に。出雲大社の祭神である大国主大神のお使いともいわれる龍蛇神をご先導として、海からやって来た神々は、依代となる2本の神籬(神が宿る樹木)に遷られます。そして、神職や大勢の氏子たちの行列とともに、出雲大社へと向かうのです。神々は、翌日の11日から17日までの7日間、神議りと呼ばれる、人知を超えたさまざまな取り決めを話し合うと伝えられています。そして、17日には神等去出祭にて、神々をお見送りするのです。

大勢の人が集まるが、辺りは静まり波音が響く中、神迎えの祝詞(のりと)が献上される。

出雲に集まった神々は、いくつかの神社を訪れる

出雲大社に集まった神々は、他にもいくつかの社を巡ります。佐太神社は、文献上の記録で最も古くから神在祭が行われているとされ、約500年前の神社の記録と同じ内容で現在も神事を執り行っています。神迎祭は新暦の11月20日の夜に行われ、それ以降、25日まで神在祭が厳かに行われます。神等去出祭は25日の夜。暗闇の中、神職と参列者が約2㎞離れた神目山の山道を登り、祭場へと無言で向かいます。そこには池と呼ばれる窪みが掘られており、そこに神籬を載せた小舟を置き、神々を送るのです。

稲佐の浜に集まった人々は御幣を授かり、神様に願いを祈念する

万九千神社(まんくせんじんじゃ)には、出雲に集まった神々が最後に立ち寄り、神議りの締め括りとして直会(宴)を催し、帰路につくというユニークな伝承があります。万九千神社では旧暦の10月17日の早朝、宮司が一人で近くを流れる斐伊川の水辺で、秘儀として神を迎える龍神祭を行い、神籬に迎えた神々を神殿(※2)の裏にある磐座と榊へと遷します。そして26日の神等去出祭では、宮司が神殿の戸を梅の小枝で「おたち」と3度唱えながら叩き、神々に旅立ちのときが近づくことを告げます。その後は神々だけの宴の時間。人々は邪魔をしないように、神社を立ち去り、決して近づいてはならないとされています。

(※2 神殿=神様がお鎮まりになるところ)

神迎神事の後、出雲大社の神楽殿では、行列とともに到着した神々をお迎えする神迎祭が執り行われる。

なぜ神様は出雲に集まり、 縁結びをするのか?

(お話:島根県立古代出雲歴史博物館学芸部長、品川知彦氏)

出雲に神々が集う伝承は、12世紀半ばの和歌の研究書『奥義抄』に記されています。特定の神社に神々が集うことが明記されている最古の資料は、14世紀半ばの万葉集の注釈『詞林采葉抄』。出雲では10月を神在月として、神々は神在社と呼ばれる佐太神社に集うことが記されています。もちろん、もっと前から神事があった可能性も考えられます。現在、出雲で神在祭を行っている10社には、縁起と呼ばれる由来があり、大半の神社では中世末には神在祭が行われていた記録が残っています。

神々が出雲に集う理由は、昔からさまざまな解釈がされており、時代や社会情勢によっても変化してきました。代表的な理由としては、国譲り神話に基づき、大国主大神が神々に関する幽事(目に見えない世界)を治めていることから、神々がその指示を受けるために、出雲に集うという考え方。出雲大社に集まった神々は、男女の縁結びや人と人との縁などをはじめとした、さまざまなことを取り決める神議りを行います。全ての神々の母神であるイザナミが10月に亡くなり、出雲に埋葬されたので、孝行のために集うという説もあります。一年中で10月だけは、出雲大社の祭神が日本を統治しているという考え方や、陰陽説に基づき、極陰の月にあたる10月に、畿内から極陰の方角にある出雲に、陽の神々が集うことで世界が再生するという考え方もあります。

一方で出雲以外の地域でも、昔から出雲に神様を送り出したり、戻ってきた神様を迎えたりする祭りが行われています。中国・四国を中心に、北海道、南西諸島をのぞく、ほぼ全国で見られます。各地域から神様が出雲に来る理由も伝承されており、縁結び、酒作り、料理、奉公、会議、里帰りなどさまざま。民俗学的に、日本では出雲という地域をキーワードに、神様を送ったり迎えたりする風習が古くから根付いており、それを説明するために各地でバラエティ豊かな伝承が成立していったのではないかと考えられます。

■出雲大社

島根県出雲市大社町杵築東195
☎0853・53・3100
http://www.izumooyashiro.or.jp

■島根県立古代出雲歴史博物館

島根県出雲市大社町杵築東99番地4
TEL:(0853)53-8600
https://www.izm.ed.jp

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