使えば使うほど艶やかに、なめらかに。一生ものの本黄楊櫛はいかが。

人々がせわしなく行き交う四条河原町を西に少し入ると、京都に唯一残る、黄楊櫛(つげぐし)の専門店に出合えます。

「くし」の字の九と四を足して十三や。明治8(1875)年の創業以来、ほとんど全ての工程を手作りしている伝統と歴史を持ったお店です。中に入ると、なめらかな曲線、そして優しい光沢を持った黄楊櫛がずらり。その製法は奈良時代から変わらないとのことです。

上から下に、透かし彫り飾り櫛、黄楊びん櫛、黄楊荒櫛、透かし彫り花櫛、紳士携帯用手付き櫛、黄楊4.5寸とぎ櫛

材料に使うのは粘り気が強い鹿児島・指宿(いぶすき)産の本黄楊のみ。板状に製材したものを数日天日干しして燻蒸(くんじょう)し、それから10年以上もの間じっくり寝かせ、十分に安定したものだけを櫛の形に加工していきます。寝かせが十分でないと加工後に歯が曲がってしまうことも。それを防ぐため、長いものでは20年以上寝かせることもあるそうです。

製材の後、たがでまとめられた黄楊

細い櫛目を弓鋸(ゆみのこ)で切り出す作業は歯挽きと呼ばれ、職人の感覚だけが頼りとなる繊細な作業。一つ一つ丁寧に、まっすぐに歯が作られていきます。続いて歯の形を整える歯摺り、木賊(とくさ)や椋(むく)の葉での歯磨きが行われ、最後に棕櫚(しゅろ)の葉で艶を出せば完成です。想像を遥かに超える時間が費やされ、職人の命が宿った十三やの黄楊櫛は、伊勢神宮の遷宮の際に奉納される「神宝」としても使用されています。

感覚を頼りに、すいすいと歯の形を整える歯摺り

現在店を守るのは、5代目の竹内伸一(たけうちしんいち)さんです。幼い頃から先代の仕事を見て学び、長年かけてその技術をものにしていったのだそう。「黄楊櫛を使うことを〝育てる〞という方もいらっしゃるほど、黄楊でできた歯は使うほどに丸みを帯び、髪によくなじんでいきます」と教えてくださいました。

5代目の竹内伸一さん。櫛の形によってさまざまに使い分ける歯摺り、歯磨きなどの道具類が並ぶ

1カ月に1、2晩ほど、櫛を椿油に浸してお手入れをすれば汚れにくく、あめ色の光沢が増し、より深い色合いになっていきます。また、椿油の染み込んだ黄楊は静電気がおきず、なめらかな櫛通りに。大切に使えば一生ものになるのが黄楊櫛の魅力です。

京都の芸舞妓さん、日本髪の結髪師、ときには男性も買い求めるという十三やの黄楊櫛。人々の、美を願う気持ちを叶える逸品です。

店内には黄楊櫛の他、かんざしやお手入れ用品が所狭しと並ぶ

<十三や>

京都市下京区四条通寺町東入る
☎075-211-0498
http://www.kyoto-wel.com/shop/S81004
最寄駅:阪急電鉄京都線「河原町駅」