2014年、大山隠岐国立公園に新たに編入されたのが鳥取県三朝町の三徳山地域です。標高900mの三徳山は、約300万年前の火山噴火によって生まれた山で、豊かな自然のなかに、山全体を境内とする三佛寺の宗教施設群が数多く点在しています。なかでも最も人気を集めているのが「日本一危険な国宝」とも呼ばれる投入堂です。

1300年以上前に役行者が開いた霊山

「日本の山岳信仰で大切なのは山を敬う気持ちです。参道を登る際の〝六根清浄〞の掛け声も、五感と心を清らかにするという願いを込めたものなのですよ」。こう教えてくれたのは三徳山三佛寺で執事次長を務める米田良順さんでした。

三徳山の開山は慶雲3年(7066年)、かの役行者が修験道の行場として開いたのが始まりとされています。その後、嘉祥2年(849年)に慈覚大師の手で阿弥陀如来・大日如来・釈迦如来の三尊が安置され、天台宗三徳山三佛寺と称するようになり、西日本有数の山岳寺院として人々の篤い信仰を集めてきました。そんな三佛寺に参詣する人々がめざしてきたのが国宝の投入堂です。

役行者が法力で投げ入れたと伝えられる建物は、標高520mの切り立った崖の窪みに、まるで浮かぶようにへばりついています。優美な弧を描く桧皮葺き流れ造りの屋根の上には、ごつごつした安山岩が庇のように張り出し、これが天然の覆いとなって、風雨や雪から建物を守ってきたともいわれています。「建物の一部は年代測定により今から約1000年前、平安時代後期の建築であることが判明しています。しかし、作るのも、通うのも、維持管理するのも大変なこのような場所に、誰が何の目的で投入堂を建てたかは今でも謎のままなのですよ」と米田さんは言う。

山麓にある三佛寺本堂近くの参拝登山事務所から投入堂までは往復1時間半から2時間ほどの道のり。途中には木の根につかまりながら急斜面を登るカズラ坂、鎖を手に巨岩を乗り越えていくクサリ坂など、数々の難所が待ち構えています。一方、その険しい参道の途中には、巨岩の上に建つ文殊堂などもあり、舞台造りの廻り縁に建つと大山まで一望できるすばらしい眺めを楽しめます。その道筋には、苦難の先には大きな喜びが待っているかのような、一種のストーリー性まで込められているようなのです。

「三徳山の豊かな自然と一体になった投入堂の魅力は写真だけではわかりません。ぜひ自分の足で険しい山道を登って、本当の感動をぜひを味わっていただきたいですね」と米田さんは語っていた。

三徳山三佛寺
鳥取県東伯郡三朝町三徳
☎0858-43-2666
http://www.mitokusan.jp/