江戸の風情を残す趣のある建物、役者の息遣いも感じさせるほどの小劇場ならでは臨場感などなど、大劇場にはない味わい深い小さな芝居小屋が全国に点在しています。
一時期は時代の流れとともに客足が遠のき、その存続が危ぶまれる時期もありましたが、地元の方の熱意が原動力となり、魅力的な小劇場として蘇りました。
現在残るのは全国に約20軒ほどと言われていますが、今回は、その内の国や県の重要文化財として保護されている5軒を紹介します。
江戸の風情を湛えた芝居小屋の魅力を味わいに、一度訪ねてみませんか。

秋田県:康楽館(こうらくかん)

当時隆盛を誇った小坂鉱山の厚生施設として1910年に誕生しました。外観は、明治期の雰囲気を備えたモダンな洋風、内部は純和風で、人力で動かす回り舞台など、伝統的な歌舞伎小屋の仕掛けを備える和洋折衷の貴重な建築物です。

こうした歴史的価値が認められて2002年に国の重要文化財に指定されました。

一世紀を超えてもなお現役の芝居小屋として常打芝居や松竹大歌舞伎などの豪華舞台など、様々なイベントが行われ、地元の方に愛されています。

なお、開演前や終演後に専属ガイドの案内で館内の歴史や舞台装置などを見ることができます。回り舞台など昔ながらの舞台の仕掛けや歌舞伎役者のサインが残る楽屋は必見です

正面は下見板張りの白塗り、上げ下げ式の窓とノコギリ歯状の軒飾りが規則正しく並ぶ。
レトロな広告看板を再現。舞台上手には太夫座(たゆうざ)・囃子場(はやしば)も。

【康楽館】

住所:秋田県鹿角郡小坂町小坂鉱山字松ノ下2

小坂町HP:http://kosaka-mco.com

兵庫県:出石永楽館(いずしえいらくかん)

明治期に建設された近畿地方に現存する最古の芝居小屋である出石永楽館は、明治34年に開館し、歌舞伎をはじめ新派劇や寄席などが上演され、但馬の大衆文化の中心として大変栄えてきました。

しかし、時代と共に映画上映が中心となり、やがてテレビの普及や娯楽の多様化などに耐えきれず、昭和39年に閉館せざるを得ませんでした。

時は流れ、往時の永楽館を懐かしむ声があがるようになり、約20年に渡る復元に向けた活動により、平成20年(2008年)に大改修なされ、44年の時を経てついに永楽館は蘇りました。

客席数が340と古い芝居小屋の中でも小さなほうですが、それだけに客席からの臨場感は素晴らしく他では味わえないものとなっています。

生活道路に面して建ち、隣は民家。町の暮らしに溶け込んだ劇場だ
レトロな広告看板を再現。今も営業している店もある。舞台上手には太夫座・囃子場。

庫県豊岡市出石町柳17-2

http://eirakukan.com

香川県:旧金比羅大芝居( 金丸座)

金比羅大歌舞伎、通称金丸座は江戸後期の1835年(天保6年)に建てられた現存する最古の芝居小屋です。当時は金比羅詣でと共に芝居見物もするという参拝客の楽しみのひとして隆盛しました。

しかし時代と共に衰退し、戦後は荒廃してその存続までも危ぶまれましたが、地元の方の熱意と、テレビドラマの撮影をきっかけに一気に復活の道を辿ります。そのドラマに出演していた歌舞伎役者の中村吉右衛門丈、澤村藤十郎丈、中村勘九郎丈がこの金丸座に魅了されたことが、昭和60年6月の「第1回四国こんぴら歌舞伎大芝居」復活のきっかっけとなりました。

その後、毎年のように大芝居が行われ、それと共に様々な常打ち芝居も行われ、地元の方の誇りにもなっています。

1970(昭和45)年、国の重要文化財に。体をかがめて鼠木戸(ねずみきど)から中へ入る。
回り舞台、すっぽんの上下、光を採る2階の高窓の開閉など、全て人力で行われる。

香川県仲多度郡琴平町乙1241

http://www.konpirakabuki.jp

愛媛県:内子座(うちこざ)

内子座のある内子町は、明治期より木蝋(もくろう=ハゼの実から作られる天然植物系蝋)や生糸等の生産で栄えており、内子座は、この町の富を背景に1916年(大正5年)に、芸術、芸能を大切に思う地元の人々の熱意によって建てられました。建物は当時の建築技術の粋を集めて建てられたと言える豪華な造りを見せています。

ここでは、歌舞伎、人形芝居、落語、映画などなど、様々な出し物が行われていましたが、老朽化のための取り壊しが取りざたされましたが、地元の方の熱意で修復され、1985年(昭和60年)に本格的な劇場として再出発しました。現在では、演劇はもちろんのこと、コンサートや発表会、シンポジウムなど多目的ホールとして活用されています。

大正天皇の即位を祝って創建。白壁が美しい。
木組みで四角形に切った枡席。上手には義太夫席、下手には演出効果を高める三味線や太鼓を演奏する黒御簾。

愛媛県喜多郡内子町内子2102

https://www.town.uchiko.ehime.jp/site/uchikoza/

熊本県:八千代座(やちよざ)

八千代座は1910年(明治43年)に建設された芝居小屋です。開業以来様々な興行が行われ、山麓に賑わいをもたらしましたが、昭和期に入ると次第に客足が鈍り、劇場は映画館としてその役割を果たしていましたが、それもテレビの普及により客足はさらに遠のき、結局閉館となってしまいました。
人がいなくなった小屋は荒れ果て、八千代座不要論も取りざたされましたが、この八千代座を救うために立ち上がったのが、地元の老人たちと若者たちでした。彼らは30年に渡る「瓦一枚運動」と言われる市民募金を行い、その努力が実り隆盛を極めた大正期の八千代座が蘇り、1988年(昭和63年)に国の重要文化財に指定されました。

また、1990年(平成2年)から毎年、市民の手作りで行われている「坂東玉三郎公演」が、全国的な評判を呼び、今もなお現代の芝居小屋として活き続けています。

木のぬくもりに西洋建築を取り入れた造り。設計は廻船問屋の主人で灯籠師でもあった木村亀太郎。
華やかな天井広告。平成の大修理では耐震構造補強も実施。

熊本県山鹿市山鹿1499