小笠原流礼法で最も重要なことは、相手を大切に思う「こころ」です。
そのこころを、合理性と美しさで表現したのが、作法、すなわち「かたち」なのです。
礼法をまなぶことで日本人は、職場、訪問先や冠婚葬祭の場において、
女性はより美しくエレガントに、男性は凜々しくスマートにふるまうことができます。
今回は、お刺身・焼き物・煮物のいただき方についてご説明します。
文 : 小笠原敬承斎 Keishosai Ogasawara / 絵 : 朝生 ゆりこ Yuriko Aso
Keyword : 小笠原流礼法
お刺身のいただき方
前菜やお吸い物の次に出されるお刺身は、お造りとも呼ばれます。お刺身は手前に白身魚やイカ、奥にはマグロなどの赤身が盛り付けられます。貝類は白身の脇に盛り付けられていることが多いでしょう。
お刺身に限ったことではありませんが、お食事を進めていく一つのポイントとして、淡白なものから濃厚なものへといただくようにすると、お互いの味をじゃますることなく、おいしくいただけます。したがってお刺身の場合も、白身から赤身へといただくように心がけます。
ワサビはしょうゆに溶いて悪いわけではありませんが、見た目、さらにワサビの香りや味わいを楽しむことを考えると、お刺身の上に直接のせるとよいでしょう。穂ジソが添えられていて召し上がりたい場合は、穂をお箸でしごいてしょうゆ皿に入れるか、お刺身にのせます。
さらに注意するべきことは、しょうゆ皿の扱いです。しょうゆ皿をテーブルに置いたまま、しょうゆがたれないようにと前屈みになると姿勢を崩し、好ましくありません。しょうゆ皿は手に取り、胸元あたりまで持ち上げていただくと、美しい姿勢を保ったまま、お食事を進めることができます。
焼き物のいただき方
昨今は焼き物に肉料理が出されることがありますが、やはり焼き物といえば魚料理。西京漬けやかす漬け、あるいは照り焼きなどにした切り身魚が、焼き物の主流といえましょう。
魚は左側から一口ずついただきますが、魚の皮が苦手な方は残してもよいものです。小骨が口に入った場合は懐紙や左手で口元を隠して取り出し、はじかみの軸、魚の皮などと一緒に皿のすみにまとめておきます。
煮物椀の蓋の開け方
煮物は炊き合わせとも呼ばれます。薄味で仕上げられているものが多く、温かさを保つように蓋つきの煮物椀で出されることが一般的でしょう。
まず蓋は、内側についているしずくが落ちないよう、蓋の開け方に注意が必要です。蓋はうつぶせに置かないようにしますが、蓋の開け方の順番は次のとおりです。
<蓋の開け方>
①左手で器を押さえ右手で蓋の糸底を持ち、手前から向こう側に開ける。
②蓋を器のふちに添って右側に立て、しずくを軽くきる。
③左手で蓋のふちを持つ。
④右手でも蓋のふちを持ち、糸底を下にしてから右側に置く。
蓋を開けた後は、煮汁がたれないように器を手に取っていただきます。器が熱い場合や大きい場合は、器の蓋や懐紙を受け皿として用います。
サトイモなど大きなものは器の中で、お箸で切って一口大にしますが、タケノコなどお箸で切れない場合は口で噛み切り、2、3口に分けていただきましょう。ただし、歯形がついたものは器に戻さないようにと心得ます。
全てのお料理にも関することですが、温かいもの、冷たいもの、それぞれ出された温度を保っていただくことも作法の一つ。お話に夢中になってしまい、お料理の温度が冷めたり、ぬるくなってしまわないうちにいただくことも大切です。